携帯がその身を震わせながら音を立てる。
同時になる着信音は、すぐにわかるようにと設定されたもので、急いで俺はその電話を取った。

『もしもし、鵺？』
「先輩・・・」
ヒクリと喉が震えてしまった（聞こえてないかすげぇ心配だ）。


『１０秒以内にわたしのところにいらっしゃい』

ブツンと大きな音を立てて通信が途切れた。




つーか、どこにいるんだよっ！
学校の中だからＡ・Ｔもはけなくて、悩んでいる時間ももったいなくて俺は走る。

１０秒以内、ってことはそんなに遠い場所じゃない。
ああやって命令で無茶なこといってるように聞こえるけど、意外と先輩は気が小さい。

次の授業始まり近くってことは、教室じゃない（サボるために呼んだんだろうから）。
中庭、は先輩のあんまり好きじゃないスポットだ（空が遠いのが嫌いらしい）。


つーことは、後一つ。



「ジャースト１０秒〜」
バンっと音を立てて扉を開くと、そこにはストップウォッチを振りながら微笑む先輩がいた。
だーもう！この人はっ！

「次の授業小テストがあったんっすけど」
「気にしちゃだめよ」

嘘だ。

（いや、小テストがあったのは本当なんだけど）
そんなこと気にしてたら来なかったし、多分来なくても先輩は怒ったりなんてしない。


黙り込んでいた俺に、先輩が近づいてくる。
「怒った？」
クスクスと楽しそうに笑ってるフリをしてるけど、本当は不安で一杯な顔だ。
付き合いが長いんだからすぐわかるっつの。


ああ、やばい。本当に可愛い。
姿とかじゃなくって（いや、もう世間一般が彼女の容姿を蔑んでも俺は胸を張って可愛いって言っちまうんだけど）。

多分、自惚れも結構入ってるかもしれないけど。


「全然」

ニタリと笑うと、ホっとしたように顔が緩んだ。


くそ、何かもう、これが演技でも構わないかもしれない。
こうやって振り回してでしか愛情確認できない先輩は、俺にベタ惚れしてくれてるんだと思う。
他人からみたら女王様と奴隷だ、なんて囃し立てられるけど、それでもいいかもしれない。

なんたって、俺はその女王様にベタ惚れしてんだよ。

ちくしょう。



「先輩、一緒に昼寝しようぜ」
どうせもうチャイムは鳴ったんだし。

「じゃあ、腕枕してちょうだい」
上にのぼりましょ、と笑う先輩に俺は頷いた。

「勿論、女王様」