もう登録してある短縮ボタンをそっと押した。 1コール、2コール、の途中で鵺が出る。 「もしもし、鵺?」 震えないように気をつけた。 本当は、嫌がられるんあじゃないかってちょっと不安。 (切られたら、あたしはきっとここから身を投げ出してしまいそうなくらいにショックになるかもしれない) 『先輩・・・』 鵺が何か言う前に、あたしは口を開いた。 「10秒以内にわたしのところにいらっしゃい」 声が上擦ってなかったか、ちょっとどころか、かなり心配。 鵺の脚力だったら屋上まで10秒で来れるはず。 あたしは手の中にあったストップウォッチのスタートボタンを押した。 これは、一種の駆けなのよ。 鵺が来るか、来ないかっていう単純なかけ。 来てくれたら鵺はあたしを好き、来なかったら鵺はあたしを。 頭のいい鵺のことだから、多分この場所はすぐにわかってる。 でも、たしか鵺のクラスの次の授業は小テストがあったから来ないかもしれない。 暗い考えが浮かんでしかたがなかった。 バン、と大きな音がして扉が開いた。 「ジャスト10秒〜」 ストップウォッチをカチリと止めた(本当に10.00だった)。 少しも息を切らせていない鵺が、ふぅと溜息を吐く。 「次の授業小テストがあったんっすけど」 「気にしちゃだめよ」 やっぱり、小テスト大切だったかしら(今なら、まだ帰れるけど) 黙り込んでしまった鵺に、あたしの不安が募っていく。 「怒った?」 クスクスと音を立てて笑ったけど、不安で不安で仕方がなかった。 怒ったって言って、帰っちゃったらどうしよう。 こんな愛情確認しかできないあたしに、愛想を尽かしてしまったらどうしよう。 (多分あたしはきっと、生きてなんていけない) 「全然」 鵺がにっと笑ってくれて、あたしは思わず安堵の息を吐いた。 聡い鵺だから、ひょっとしたらこれがあたしの愛情確認って気付いてるのだと思う。 それでも、付き合ってくれる鵺の優しさが、あたしは凄く好き。 世界中の誰もが鵺を格好悪いと言っても(それはないだろうけど)、あたしにとって鵺は凄く格好良い。 だから、不安で仕方がないの。 「先輩、一緒に昼寝しようぜ」 鵺がまるでいつも羽ばたいている空のように笑った。 チャイムは少し前に鳴り終わってしまった。 「じゃあ、腕枕してちょうだい」 そうしたら、あとで膝枕をしてあげようと思う。 「勿論、女王様」 そう言って優しく笑ってくれた鵺に、あたしも微笑んだ。 |