「鵺の恋愛対象って、何歳!?」

「ぶふっ!!」

突然、呑んでいたコーヒーを噴出させたセリフを言ったのは、スミナ教会聖歌隊のメンバーの一人、だ。
特徴的なクリクリとした目で、見あげるに、鵺はコーヒーを噴出してしまったA・T雑誌を捨てて、怪訝な目でを見た。
「どーいうことだ・・・」
「つまり、何歳になったら、鵺は抱いてくれるの!?」

ガッチャン。

けたたましい音を立てて、鵺は持っていたコーヒーカップを落とした。
はそんなコーヒーカップを見て、あーあ、ともったいなさそうにしている。


「お前、小学4年だろ!?」
そんなコーヒーカップに構う余裕も無く、鵺は真っ赤な顔でを見下ろした。


目の前で、鵺の恋愛対象になる年齢を聞いている少女は、日中は赤いランドセルを背負っている。
背も小さく、体のデコボコが最近見られるようになった・・・かな?程度なのだ。
けれど、その少女は平然とコーヒーカップを片付けながら、愚痴を言っている。

「もう、結構これ高かったんだから」
「あ、ごめん。・・・じゃない!んなのどこで聞いたんだ!!」
の言葉に反射的に謝って、それから違う!と手を大きく振った。

まだまだ純粋であるはずの少女に、そんなことを吹き込んだのは誰だ!!と鵺が頭をめぐらす。
スピット・ファイアか!?シムカか!?アイオーンか!?
一番懐いてくれる可愛いに、邪まな知識を植え込んだのは、絶対にあいつらだ!
と鵺の中で、メラメラと怒りの炎が燃える。


「で、何歳?」


割れたコーヒーカップを片付けてきたは、可愛らしく小首を傾げて、再び問う。
けれど、鵺はそれよりも!とガシ、との肩を掴んだ。

「それを吹き込んだのは誰だ!スピット・ファイアか!?シムカか!?アイオーンか!?」
もの凄い気迫で詰め寄る鵺に、少し引き気味になりながらも、小さく、



「シムカお姉ちゃん・・・」

と、情報源を暴露した。
その言葉に、鵺はやっぱりな・・・!と目をギラリと光らせた。
明らかに怒りに震えている鵺に、はしゅん、と首を垂れて、鵺の服の端を掴んだ。

「・・・ごめんなさい」
謝るに、ピタリ、と鵺は止まって、優しく微笑んだ。
「別にが悪ぃわけじゃねって」
な?という鵺に、は悲しげな顔でうん、と頷いた。


―――のも一瞬。


「で!?」

「は?」
ガシ!と服を掴んで、鬼気迫ったような顔で掴んでくるに、鵺は首を傾げた。

「さっきの答え!鵺の恋愛対象って何歳!?何歳だったら抱いてもOK!?」
「な、何で、んな・・・!?」
「いいから答えて!!」
「お、おぅ・・・」

まるで切羽詰ったような表情で言うに、鵺は渋々頷いた。

何だか、怖ぇな、コイツ。
そう思いながらも、鵺は浮かんできた疑問に、再び首を傾げた。


「なんで、んなこと聞きてぇんだよ」
シムカに聞き出してこいっていわれた・・・っていうには、あまりにも鬼気迫りすぎだ。
そう思って、鵺はの頭を撫でて、落ち着かせるように聞いた。

瞬間、ボン!と音を立てて、の顔は茹で蛸へと変化する。

・・・間違い、茹で蛸のように、真っ赤な顔になった。


「あ、うあ・・・そ、れは・・・」
「それは?」
様子がおかしくなったに、鵺はさらに首を傾げる。
一体、何があったんだ?

「え、っと・・・」

耳まで真っ赤な顔のまま、俯いて黙り込んだに、鵺は少し、眉間に皺を寄せた。
・・・?」
鵺が屈んで、の顔を覗き込んだ、時。


ちゅ。
やわらかい感触が、鵺の唇に届く。



「あたしが!鵺を好きだから!!早く、早く大人になるから、鵺の恋愛対象に入ったら・・・入ったらっ!」
少し、涙目に上目遣いで鵺を睨んで、言い切らないまま走って、逃げ出した。

「・・・・・・・・・・・・・は?」
残された鵺は、暖かいものが触れた唇に手を当てて、泣きそうな少女の、色気を孕んだ瞳を思い出して。
視界一杯に広がった、の顔を思い出す。



「・・・え?ま、じで?」



真っ赤に染まっていく顔を隠すこともしないまま、気付いてしまった想いに硬直していた。





はやく抱いて、
はやく抱いて、
はやく抱いて!



( 貴方にアタシが届くのは、ねぇ、一体何時なの!? )