光を反射しながら、揺らめく、空が見える。
身体を包む冷たくて、暖かい水の中で。
空に手を伸ばした。



夕方。

日は傾いて、空は少し橙色だ。
帰り始める生徒の中で、一人、知り合いを見つけて名前を呼んだ。


「鵺」


パシャン、と音を立てて水から出ると、フェンスの向こうで鵺が、あたしを見た。
くるり、とした目は、少し疲れ気味だ。

。部活か?」
そう首を傾げた鵺に、掛けてあったタオルをつかんで、あたしは首を振った。
冷たい水滴が、火照った身体を流れる。
「ううん。泳ぎたくて。・・・あ、時間ある?」
ちらり、と時計を見て、5時過ぎなのを確認して、鵺に聞いた。
鵺はたくさん小さい子と一緒に暮らしてるから、忙しいかな?
「ん?ああ」
そう思って聞くと、帰ってきたのは肯定だった。

「じゃあ、一緒に帰ろう?」
「おう」

入口で待ってて、といって、あたしは更衣室に急いだ。
ペタリ、と張り付いた水着は、気にならなかった。




「お待たせ」
肩にタオルを掛けて、ひょこっと顔を出すと、鵺が苦笑した。
「濡れてる」
クシャリ、と髪を触る鵺に、早く会いたかったのがバレたような気がして、あたしは一人、俯いた。
タオルを取って、鵺がアタシの頭を拭く。


やっぱり、慣れてるなぁ・・・。
「うしっ」
拭き終わったみたいで、返されたタオルは、さっきよりも濡れていた。

「じゃあ、帰るか」
そう言って、手を差し出した鵺の後ろから差す、橙色の夕陽が、鵺を照らす。
ぎゅ、と湿ったタオルを握り締めて、あたしは鵺の手に、そっと手を重ねた。



は、泳ぐの好きだよな」
「そーいう鵺こそ、空を泳ぐのが好きでしょ?」
そう言うと、鵺はまぁな、と頬を掻いた。

「だから、あたしも泳ぐのが好きなんだよ」
プールも楽しいけど、泳ぐなら、海が一番いい。
そう言うと、鵺は首を傾げた。
「?何で」
「だって、海は、空と一緒になれるでしょ?」

境界線すら消え去って、海は空を映して。
交わりあって、溶け合って、青い、青い、空と一つになって。

「あたしは空を飛べないけど」
飛ぶことも、考えたことはないけど。
「そうしたら、鵺と一緒にいられるから」
空を飛ぶ鵺の、ずっと傍に。
きっと、いられると思うから。


「・・・そっか」
橙色が、あたしも、鵺も、街も、空も、照らして。
そこはまるで別世界みたいに。
「うん」

だから、あたしは海を泳ぐよ。





だから、貴方は空を泳いで



( 溶けあって、交じりあって、一つになれるなら )