「ふっ、・・・っ、く、ふ・・・」

ああ、涙よ、流れるな。




口を抑えて、壁を背に座り込む。
必死に抑えて、口を抑えて、近くになんていやしないのに、君に聞こえないように。
涙も、想いも、全部飲み込んだ。

聞こえないで。知ってたから、あたし、全部、全部知ってたから。
いつか君は空に飛び立っちゃうんだって、ずっと傍には居れないんだって。
それでもいいって告白したあたしを、貴方は抱きとめてくれて。

ねぇ、それは奇跡だったんだ、きっと。


涙が溢れる。声が震える。

聞こえないで、聞こえないで。
遠くの空へと飛び立ってしまった、鵺だけには、聞こえないで。
口を抑えて、想いを抑えて。

最後に、ばいばいって笑顔で手を触れたのかな。
ちゃんと、ちゃんと、あたし、笑えてた?
声には出さないけど、心の中で、心の中だけは、呼んでもいい?叫んでもいい?

鵺。鵺、鵺―――大好きだよっ!

ずっと、ずっとこれからも、大好きだからっ!

ずっと傍にいれなくても、それでもいいって、告白して、泣いたあたしを。
抱きしめて、泣き虫、なんて笑った鵺が。


一番、一番、大好きでした、大好きです、これからも、大好き。


あと、もうちょっと。
もうちょっとで、あたし、笑えるようになるよ。

「ひっ、く・・・ふっ、っ!」


だから、あと、あと、もうちょっとで。
鵺が居なくても。




「泣き虫」

吹き抜けるように、声が聞こえる。

嘘、嘘嘘。

「ぬ、え・・・」
なんで、なんでここにいるの?さっき、バイバイしたじゃない。
ビックリして、涙なんて止まっちゃった。

「な、んで・・・ここに、」

「俺、がいねぇと、飛べねぇんだよ」
「ぬえ・・・」
「トラツグミ、なんて勝手な愛称つけて、一々俺のトリックに喜んでるが、横にないと、飛べねぇんだよ」

「飛べ、ないの・・・?」
「飛べねぇ」
「・・・一緒に、いて、も・・・邪魔にならない?」
「邪魔になったら、そもそも最初から一緒にいねぇ」


「・・・一緒に居ても、いいのっ?」

「でなきゃ、迎えにこねぇよ。―――俺はと一緒にいたい。・・・は?」


問い掛ける鵺が、そっとあたしの頬についていた涙を拭った。
じんわり、また目から涙が溢れ出す。


「いっしょに・・・居たいっ!」

ずっとずっと、鵺と一緒に居たい!!ずっとずっと、傍に居たい!


「よし、じゃあ来い!」
「うん!」

流れる涙が、嬉し涙に変わって、あの日と同じ、暖かい手を握り締めた。





ナミダがくれた、ひとつのキセキ



( 君のために落とした涙は、いつか宝石のように輝いて煌いたの )