走れ、走れ走れ走れ走れ! 縺れそうになる足を必至で回転させて、あたしはずっと走っていた。 正直足の裏は痛いし腿はすでに感覚ないし重いし、もう息だってあがってる。 ATより遅いんだから間に合うわけがないと思っても、それでもどこかで止まってるかもしれない影を追いかけるようにあたしは走った。 「っは、きら・・・める、もんかぁっ!!」 沈んでいく夕日の真っ赤さに泣きそうになる。 全然見つからない影に途方にくれそうになる。 でもここであたしが諦めたら、きっと終わってしまうんだ。 「っ、は!」 全然分かんないよ、鵺。 グラビティ・チルドレンって何。 A・Tの世界って何。 トロパイオンの塔って何。 全然知らないし、全然分かんないよ、っていうかわかるわけないじゃんっ! 「どぅわっ!!っとっとと、」 だからってなんで世界が違うとかそういう話になるわけっ!? っていうかあたしは何で付き合ってわずか1か月の相手に別れを切り出されるわけっ!! あたしのこと嫌いになったとか、何か嫌なことしたとか、別に好きな人ができたとかそれならいいよ? いや、良くないけど。 「世界が違うとか・・・この世に世界は一つだっつーのっ!!皆地球の上で生活してんだー馬鹿ーっ!!!」 体がどんどん重くなっていくけど、あたしは必至で足と腕を振り上げて走る。 鵺が言いたいのはそういうことじゃないってくらいわかるけど。 わかってやらない!わかってやりたくない!! 「知るかそんなことぉっ!!」 世界が違うからとか、存在が違うからとか、普通の場所でとか、そういうことはどうでもよくて。 A.Tは危ない世界だからとか、不良もいっぱいいて、暴風族とかいて、死ぬってことだってあり得るって懇切丁寧に説明された。 だけど鵺は別にそういう存在じゃないでしょう? 傍にいるのが危ないとか言ってたけど、別れたって納得できなきゃあたしは付きまとうし、全然意味ないんだから。 「い・・・たぁ!!!!」 空じゃなくて地面に立ってた黒の塊の上にちょこんと銀色が乗っているのが見えて、あたしは気づかれる前に走ってその黒いのを捕まえた。 「っ―――・・・!」 「ぬ、え・・・っ」 心臓ばくばく煩くて、まともに息も吸えなくて、気を抜いたらがくりと崩れ落ちてしまいそうだった。 でも、顔をあげて、戸惑ってる鵺を見た。 「いい、鵺。一言言わせてもらうけど・・・」 すぅっと大きく息を吸う。 ちょっと逃げそうになってる鵺を引っ張り寄せて、思いっきり叫んだ。 「A・Tの世界は危ない世界だ?自分はグラビティ・チルドレンとかいう存在だ?あたしには平凡に生きていてほしい?ばぁか言ってんじゃないよっ!!」 あのね、知らないみたいだから言うけど。 「女の子はね、好きな男が危機に陥ってるときに何にも知らないで平和でいるよりも、危険でもいいから全部知って傍にいたいもんなのっ!!」 「っけど!」 「けども、へちまもないっ!」 どうして男の子ってこういうことを複雑に考えて勝手に思い込んで自分で納得して、そうした方がいいなんて考えちゃうのかって、話だよっ!! 「あたしは鵺が好きなの!好きだから鵺とずっと付き合うし、傍にいる!傍にいたいのっ!幸せとか平和とか、鵺がいないとまず意味がないってことを知らないの!?何と言われようとあたしは傍にいるからね、絶対一緒にいるからね!」 世界はきっと、こんなにも単純なのに。 「文句あるか、馬鹿っ!!」 |