大学の講義を長く受けて、バタン、扉を開いて、リビングに入った途端。


スリーピングビューティーな鵺君がいました。


「またいる・・・」

いや、いいんだよ?いいんだけどね。
昼はバイト、夜は大学ともなればクタクタで。

正直、寝ている鵺君が非常にうらやましい。



「いいなぁ」

あたしも寝たい。凄く寝たい。

グラグラと来る眠気に身を任せそうになるけど、それより先に、メイク落とさなきゃ。
薄化粧だけど、落とさないと肌が荒れて、大変なことになる。

メイク落としを手にとって、濡れたそれを、顔にあてる。
ラフな服にも着替えた。


一応思春期の男の子がいるのに、なんて気は張れない。
だってここ、あたしの家ですもの。

メイク落としを見事ごみ箱にゴールさせて、手に化粧水を乗せた。

・・・鵺君には、こんなの必要ないんだろうなぁ・・・。
ペチペチ、肌に染み込ませて、ソファに眠る鵺君を見る。

・・・・・・・・・・・・白い。それに、なんか、結構モチモチしてるよね・・・。

「さわってもいいかな・・・いいよね」
こっそり、口の中で自問自答してみにょん、と頬に触れた。

あ、やっぱり柔らかい。


「いいなーふにふに・・・。もう、あたしの肌は廃れてく一方だってのに」
むにむに、摘んだり、つついたり、元に戻してみたり、撫でてみたり。


「く、若いっていいなぁ・・・!」
も若いだろ」


あら、起きてましたか。


「起きてたんだ」
「途中からな」
鵺君が大きくあくびをして起き上がる。
その隣に、あたしも座った。

「今日いつから来てたの?」
「あー・・・・・・学校終わって、5時くらい?着替えて、こっちにきた」
少し眠いのか、どこか言葉の羅列が回ってない。

ちなみに、今は9時だ。
「そんなに寝てたの?今日遅いってメールしたのに」
に、渡すもんがあって、」
「渡すもの?」
「ん」

差し出されたのは、緑色の可愛い包み。

「バレンタインデーのお返し」
「え?」

「あと、これも」
ちゅ、と頬の方で小さな音がした。





   



( 僕のせいいっぱいの勇気は、君の赤い頬へと吸い込まれた蜜の味 )