「ねぇ、そこの少年。おいでおいで」

通りがかりの高校・・・ううん、中学生かな?に声をかけた。
お酒で目の前がボンヤリして、あんまりよくわからないけど、その子は素直に近寄ってきた。

「・・・未成年の飲酒か?」
「あらやだ、これでも今日はたちになったばっかりなんだから!君は?何歳なの?」
「14だ」
「じゅーよんさい!わっかーい」
けらけらと、なんだか面白くなって笑ってしまう。
お酒が入ると陽気になっちゃうっていうけど、本当に頭の中がふわふわして、ほっぺもあったかくていい気持ち。

「20歳を超えていようと、分別のない飲み方は自粛するべきだと思うが」
さらり、と言われた言葉に思わずむっとする。
何よ、その非常識人みたいな言い方は。
「うっさいわねー、傷心だからいいのぉ!ほら、ここ座ってすわって!」
ペチペチと横を叩いたらその子は素直に隣に座った。
寒い風が頬に当たって、なんだか泣きそうになってくる。


「・・・あのねぇ、少年。あたし、昨日フラれたの」
「?」
「きのーまでね、付き合ってるとおもってたのに、実はね、あたしが浮気相手だったんだって・・・しかもね、そいつ、ともだちと付き合ってたの」
今思い出しても腹が立つ。
「それでね、ふざけんなー!!って叫んで殴ってきた」
「・・・ふむ。つまりは浮気されたわけではなく、既に自分が浮気相手だったということだな」
「うん・・・」
頭を横に倒して少年の肩に乗せてみる。
けど少年は淡々と何かを考えているだけで、困ったり拒絶したりもしなかった。

「・・・少年は、いい子ね」
「・・・俺が、か?」
頭を離して、手を伸ばしてよしよしと少年の頭をなでた。
はっきりしてきた視界に映る髪の毛は硬そうだったのに、触ってみると結構柔らかかった。
ちょっとだけ目を見開いた無表情っぽい顔がこっちを見る。
「うん・・・いいこ」

土手に座りこんでる酔っ払いの相手を真面目にしてくれて、話を聞いてくれて。
きっとこんな子なら浮気なんてすることもないんだろうなぁ。
・・・いや、あれはあたしが浮気相手だったんだけど。


「少年、名前は?」
「不破大地だ」
「大地君か・・・。そっか・・・ねぇ、大地君」
川の方を向いて、また頭を傾けて大地君の肩に乗せた。
「なんだ?」

ぼんやりと、視界が薄れ始める。
意識がぼんやりとしてきて、声が遠い。

強がってふざけんななんて言って殴って走ってきたけど、本当は、すごくすごく悲しかった。
本当に好きだったのに、これからもずっと好きでいるんだって思ってたのに。

慣れないお酒で酔っ払って座り込んだ土手は冷たくて、尚更一人っきりなんだって気持ちになって。

ありがとう。
大地君がこの川辺を通ってくれて、あたしの話を聞いてくれて、傍にいてくれて。
本当に暖かかった。


「独りに、しないで」
「・・・わかった」

最後の大地君の返事はうすぼんやりとかすんではっきりとは聞こえなくて。
そのまま暗闇に引き込まれるようにあたしは眠ってしまった。





独り+一人=ふたり



( 翌朝、目が覚めたら同じ体型のままじっと座っている大地君を見て思わず叫んだのは内緒 )