ち、がう。 真っ暗になったんじゃない。 つばさ、先輩の、顔が・・・。 「・・・・・・・・・・・・」 「・・・?」 「は、白昼夢っ!!!」 だ、だって翼先輩の顔があたしの顔の目の前にあって、ま、ままま、まさか、く、くくく・・・くち、が、くっついて、るなんて・・・!!! 白昼夢以外のなんだって言うんだ、こんちくしょう! 「へぇ・・・は、夢にしてもいいんだ?」 「ふぎゃ!!・・・や、ゆめ、じゃないほうが嬉しい・・・ですけど」 今も翼先輩の顔はすぐ近くにあって、唇に翼先輩の吐息がかかる。 そのたびに背中がぞくぞくと震えるのに、翼先輩がまたあたしを名前で呼ぶから、もう腰に力なんて入らなかった。 ・・・す、座ってて良かった・・・ような。 オープニングの音もセリフも曲も何もかも耳に入ってこなくて、ただ視界一杯に広がる翼先輩の顔を見て、声だけが聞こえていた。 っていうか、今。 ・・・ひょっとして、キス、した? 「い、いい、いまのって、き、むぅっ!」 キスですか!?と問おうとしたあたしの言葉は翼先輩の口に全部呑み込まれる。 頭の中が真っ白で口の中がジンジンと熱くて、思わず翼先輩の服を掴んでいた手を握りなおす。 「キス、だけど?」 また吐息がかかるほど近くのところまで顔を離した翼先輩が、ペロリと唇を舐めてあたしに言う。 キス・・・き、す!? 「つ、つつつ、翼先輩!つ、つかぬことをお聞きしますが・・・!!」 「何?」 にっこりと、ううん、どっちかっていうとにやりと笑った翼先輩があたしの言葉に先を促す。 「も、もし、かして・・・翼先輩は、あたしのこと―――」 ぱくり。 比喩するならまさにそんな感じにやっぱりあたしの先の言葉は翼先輩の口の中に呑み込まれた。 「俺が、好きでもない奴にこんなことすると思う?」 「・・・はぅ・・・ん・・・おも、いま・・・せん・・・」 頭の中がクラクラして熱くてボゥっとするなか、それだけは答えないと、と思って声を絞り出す。 いつの間にか翼先輩の手があたしの後ろにあって、吐息がかかるほど近くにいる翼先輩が口を開きながらまたどんどんと近くなってくる。 「・・・いや、好きとはまた違うのかな・・・そうだな・・・」 先輩の実はちょっと骨ばってる手があたしの頬に触れて、どんどんとまるで距離がゼロになるまでをカウントしてるみたいだった。 なんだか翼先輩の思う通りなのが嬉しくて、ちょっぴり悔しくて、あたしは翼先輩が口を開く前に至近距離のまま渾身の力でにやりと笑った。 「愛してます、翼先輩」 「―――上等っ!」 その次の瞬間、あたしと翼先輩の距離がゼロになった。 |