「・・・え?ちゃん電車に乗ったことないの?」 「悪かったですね、無くて」 そりゃ電車に乗ったことがないなんて、いまどき中々っていうか、本当に稀なことなんだとは思うんだけど。 別に、私が悪いってわけじゃない。 「乗る機会がなかったんですよ。小中高大と自転車とか原付で通ってましたし、遠出をするなら車だし。一人で遠くに行くって用事もなかったですし」 「ごめんごめん。悪いって思ったわけじゃないんだよ。懐かしいな、と思って」 「懐かしい?」 「昔、春美ちゃんと会ったばかりのころ、春美ちゃんは切符すら知らなかったしね」 「・・・流石に、切符は知ってますからね?成歩堂さん」 電車に乗るシステムは分かってますから。 そうじっとりと見上げれば、成歩堂さんは後ろ髪をガシガシとかきながら困ったように笑う。 ・・・なんで髪崩れないんだろ。 「いつか乗ろうとは思ってても、流石に用事もなく乗りたくはないじゃないですか」 「まあ、お金も無駄になるしね」 「行く先が無ければ乗る必要なんて存在しないわけですし」 「ずっと乗り続けるわけにもいかないからね」 資料を纏める成歩堂さんをじーっと見つめる。 視線には気付いてるはずなのに、視線に込めてる意味になんて多分気付いてないんだろうなぁ。 ・・・にぶちん。 「出かけるなら、やっぱり定番って海とかですよね」 「定番なんだ」 「定番ですよー。砂浜で追いかけっことか、常識ですよ」 「ちゃん・・・それは古くない?」 うふふー、捕まえてごらんなさぁい・・・つかまえちゃうぞぉ。 は定番だと思うんですけど。 ・・・私は絶対やりたくないですけど。 「砂浜に相合傘とか書いてですね、」 「―――ちゃん」 「なんですか?」 ハートとか書いて波にかき消されるのも定番ですよね、なんて言葉は続けられなかった。 そこには、書類から目を離して私をにっこりと笑顔で見つめる成歩堂さん。 「この裁判が終わったら、海に行こうか」 「・・・切符は、成歩堂さん持ちですからね」 |