「はーい、笑ってー」 「・・・む」 カシャリ、となんとも独特な音を鳴らしてシャッターを切る。 目の前には声をかける前と変わらず仏頂面をした男が一人。しかも眉間には名刺が挟まりそうなほどに深い皺がくっきりとついたままだ。多分もう固まってるんだと思う、あの形で。 それにしても、もっと愛想よくしてくれてもいいもんだけど・・・と考えて、すぐにその考えを放棄した。だって愛想のいい怜侍とか、気持ち悪いにもほどがあるし。 「・・・何故、カメラがここに、」 「何故って、買ったからに決まってるじゃない」 何を言い出すんだか、と言わんばかりに私は腰に手を当てて胸を反らせて答える。 すると怜侍は少し押し黙った後に、何とも言えなさそうな顔をしながら深く溜息を吐いた。うわ、失礼なやつ。 「怜侍が笑わないから、相変わらずの仏頂面になっちゃったじゃない」 「仕方ないだろう。笑えと言われて中々笑えるものではない」 「そこを笑うのが写真ってものでしょう?ようは、ノリよ、ノリ」 決して食べるノリじゃなく。笑ってーとカメラを向けられたら、何とも言えない感じだとしても、それなりに笑顔を向けるのが日本人の習性だと思う。 これが外国人だともっと満面の笑みを見せてくれるんだけれど、そこはお国柄ってやつかしら。 「はい、怜侍。笑って笑って」 「、だから・・・」 カシャリ、カシャリと何度も音を立ててはシャッターを切る。そのたびにどんどん怜侍の仏頂面のデータが溜まっていく。 「・・・」 「はいはい。後で聞くから。だから笑って笑って。ね?」 「・・・」 ふぅ、と怜侍が溜息を吐く音が聞こえて、それから、ふ、と。 怜侍が、口の端を釣り上げて、少しだけ、笑う。 「・・・うっわ、悪人顔」 「・・・」 「ごめんごめん。うそうそ。きゃー怜侍くん、ステキー」 「棒読みで言われて嬉しい男がどこにいると思うんだ、君は」 キレかけた顔も、嫌そうに顔を歪めた顔も、全部シャッターを切ってデータに閉じ込めていく。 現像したら、アルバムでも買って、全部収めてやろう。 あの人に対峙した時用に、何枚か持ち歩いておくのもいいかもしれない。 「?気が済んだのか?」 カメラから手を離した私を見て、怜侍がそう言う。 「うん。もういいかなーって」 「・・・まったく。突然どうしたんだ、カメラなんて」 「んー・・・なんかね、ふと思いいたって」 朝起きた時に、ふと、まるでそれが当然のように思いついた。 そうして、考え始めたらそれしかもう頭になくって。 「私の大好きな怜侍を、証拠として一杯残すにはどうすればいいかな?って思ったのよ」 「・・・・・・。・・・」 「なあに?」 「そういうことは最初から直接言ってくれたまえ・・・」 「恥ずかしいから、やぁよ」 |