頭の奥底が、まるでぐわんぐわんと、除夜の鐘を乱暴に叩きならすかのような、そんな衝撃が何度も何度も加えられているような、そんな気がした。 理解が追いつかない、というのはこういうことを言うんだと、そう思う。 成歩堂さんの、優しいその顔から吐き出されたそのあまりにも鋭くて冷たいその言葉は、深く深く私の胸の奥まで突き刺さろうとしている。 それでも私がこうしてこれだけ冷静でいられるのは、きっとこの言葉が本心ではないと、そう知っているからなんだろう。 多分、それ以外、ない。 「・・・いや、です」 ぼろぼろと、きっと音にすればそう聞こえるに違いない。 私の両方の目からは水滴がとめどなく零れ落ちて、まるで体中の水分が抜けていくかのような気持ちだった。 哀しいのか、と聞かれればきっと違うし、悔しいのか、と言われても多分違う。 なら、嬉しいのかと問われれば絶対に違うし、じゃあ何故泣くんだと尋ねられても私は答える術を持たなかった。 ただ、ただ。 まるで自然なことのように、成歩堂さんの言葉を拒否するように、涙が零れるだけだ。 「ちゃん・・・」 「いや、です。いやです・・・いやっ!」 まるで子供みたいに、駄々をこねて。もうそうしたって欲しいものを手に入れられるような子どもじゃないのに、それでも私は成歩堂さんに向かってこうして拒否をして駄々をこねることしかできなかった。 「絶対に、いや」 ぶんぶんと首を振る。 「ちゃん・・・」 あのね、と成歩堂さんが前置きをする。 それはきっと私にとって優しい顔をした怖い悪魔のような、そんな言葉なんだろう。 なのに成歩堂さんは、それをまるで私の救いだと説くかのような顔をしていた。 「僕はもう、弁護士じゃないんだよ」 成歩堂さんの胸に輝くあのひまわりのバッジはもうどこにもない。 それが何だって言うんだろう。なんだと、思わせたいんだろう。 私にはそんなことどうだっていいのに、なのに成歩堂さんはまるで全てを失うのが当然のような顔をしていた。 「これから、生活も大変になるだろうし・・・ちゃんに苦しい思いをさせるだけだと思うんだ、だから」 「いやです」 「ちゃん・・・」 困った顔をしてほしくない、哀しそうな顔をしないでほしい。 だけど、でも、離れるのだけは嫌。 「嘘です。成歩堂さん、私と、別れたいなんて・・・思って、ません」 「・・・思ってる、よ」 「嘘です」 それだけは嘘、絶対に嘘。 だって、私わかるもの。ずっとずっと、見てきたんだもの。 「ねえ、成歩堂さん。私、離れたほうが苦しい。息もできないくらい、苦しい」 離れて、なんて言われて、もっと苦しい。もう、息なんてできない。 だから、だから―――助けて、成歩堂さん。 「―――っ、!」 |