「おめでとうございます、成歩堂さん」 本日被告人の無罪を勝ち取った法介くんは、ささやかに催された宴会の最中で、お酒についにダウンした。 ソファで座ったまま眠る法介くんに寄りかかるように眠るみぬきちゃんも顔が少しだけ赤い。 本当に、可愛い兄妹だなぁ、と思うと思わず頬が綻んだ。 「なんで僕がおめでとうなの、」 「成歩堂さんが、喜んでくれてるから、です」 発泡酒の缶をカコンと鳴らして机に置けば、成歩堂さんもそれに倣うようにカコンと音を立てて缶を机の上に置いた。 缶やら袋やらが放置されたままの事務所はなんともいえない状況で、きっと法介くんは明日その大きな声で絶叫をするんだろうなぁ、と思うと、明日二日酔いになっている私の頭が少し可哀想になった。 ・・・耳栓して寝よう。 「僕が喜んでる、ねぇ」 ゆらり、と成歩堂さんが笑みを作る。 あ、その顔好き。 そう思った瞬間に、成歩堂さんの顔がゆっくりと近づいてきて、私はそれにどうして成歩堂さんが近づいてくるんだろうと不思議に思いながら、それでも誘われるように瞳を閉じた。・・・本当は、きっと全部分かってたに違いない。 「法介くんに、ありがとうって、何度言ったらいいかわかりませんね」 被告席に座ったのは、私だった。 犯人はどう考えたって私しかいなくて、証拠だってたくさん揃ってて、私はある事情で証言をしようともせず。有罪になったって普通の状態だった。むしろ、誰もが私を有罪だと疑っていただろう。 それでも、法介くんとみぬきちゃんは、絶対に違います、と、そう胸を張って言ってくれた。 「何度だって、言ってあげればいいよ」 「・・・成歩堂さんにも、ありがとうって言わなきゃですね」 「僕は何にもしてないよ」 「・・・・・・嘘つき」 何にもしてないなんて、嘘ですよ。 本当は誰よりも一番私の無罪を信じてくれていて、そうして誰よりも奮闘してくれた。 面会に来てくれた法介くんとみぬきちゃんが、成歩堂さんも頑張ってるから頑張ってって言ってくれたから、知ってる。 誰もが今の成歩堂さんを変わったっていうけど、本当は何ひとつこの人は変わったりなんてしてない。 「ねえ、成歩堂さん」 「うん?」 「・・・ありがとう」 私の無罪を信じてくれて、言うことが出来ない私を受け入れてくれて―――真実を、暴いてくれて。 「それから、ごめんなさい」 真実が暴かれることに耐えられなくて、弱くて、弱くて・・・ごめんなさい。 「僕も、いまだに真実を暴くのは、怖いよ」 「・・・うん」 「真実は決して心が安らぐものばかりじゃない。・・・ときには、何よりも苦しい結末を導くことだってある」 そう言う成歩堂さんは法介くんとみぬきちゃんを見ていて。 なんだかまるで、父親みたいな目だなぁ、って思う。 「・・・怖かったんです」 「うん」 「真実が、凄く凄く怖くて、それくらいならいっそって思って」 「・・・」 「そのせいで、法介くんやみぬきちゃんを・・・・・・成歩堂さんを、悲しませるって分かってたのに」 ごめんなさい。ごめん、なさい。 誰よりも傷つくのは私のことを大切に思ってくれてる皆だって、知ってたのに。 それでも、真実に耐えられなくなってしまった。 「ねえ、」 カコン、と音を立てて成歩堂さんが発泡酒の缶を持ち上げる。ちょいちょいとジェスチャーで示されて、私も発泡酒の缶を手に取った。 「勝訴、おめでとう」 「・・・はいっ!」 |