壁をそのままガラスにしたような大きな窓は周りのビルより高いから、空もビルも地面も全てが見える。絶景、というには何か違うような気がするけれど、まるで都会の箱庭を見下ろしているみたい、なんて思う。 その窓はいつもピカピカに磨かれていて、下を覗いていると、落ちてしまいそうだな、なんて思う。まあ、はめ殺しの窓だから、開くことはないんだけど。 さっきから窓を向いたまま黙っている響也の背中を見つめる。 身長が高くて筋肉だってあるくせに、意外と細い響也の背中はいつもより小さく見えた。 「王泥喜くんが憎い?」 兄も、それから相棒も彼の告発によって奪われてしまった響也が王泥喜くんを憎んでいても、普通なら仕方が無いことかもしれない。 泥にまみれないヒーローなんて所詮物語の中だけで。現実の世界には理不尽なんてものはたくさん存在するのだから。 「・・・まさか」 だけど、響也はそれを選んだりはしない。 例え真実がどれほど辛く苦しいものだとしても、それを追い求めることをやめたりはしない。それが、自分を追い詰めることだとしても。 「おデコくんがしなくても、僕がしていたよ」 「・・・そう、だね」 相手が兄であろうと相棒だろうと。・・・むしろ、だからこそ。 例え誰が相手であろうと真実に立ち向かう響也に、私は哀しかったねと抱きしめることも、辛かったねと頭を撫でることもしない。したくない。 だって、そんなの自己満足なだけだわ。 そんなことしたって楽になるのは私だけで、響也の心は一欠片さえも救うことはできない。むしろ、一層響也の心を傷つけるだけだろう。 慰めたりなんかしない。 もしも、本当にもしも、響也が涙を流して縋ってきたら私は黙って抱きしめてあげたいと、そう思うけれど。勿論、響也は泣いて縋ったりしてくれないけど。 窓を向いたままの響也に、一歩、また一歩と近づいていく。 足音が聞こえたのか、少しだけ響也の肩が揺れた。 「ねえ、響也」 「ん、なんだい?」 一歩。 もう、一歩。 遠いというには近い、近いというには手を伸ばしても届かない。そんな距離からまたもう少し近づいて。 「泣いてるの?」 「・・・まさか」 最後の一歩は両足を揃えて。 窓の前に立っている響也の隣に並んだ。 「うそつき」 私はそのまま響也の肩に頭を預けた。ぴくりと肩が揺れたけど、それは無視する。 目の前の壁をそのままガラスにしたような窓は光を反射して、そうして室内の姿を少しだけ映し出す。だから、響也の隣に私の姿が映った。 「―――全部、窓で見えちゃうわ」 |