外に出たら、あたしたちは敵。



「なぁ、

鵺の眼があたしを見て、あたしは思わず動けなくなった。
だって、いっつもは飄々とした感じで、そんな真面目な顔なんてしなくって、そんな目なんてしなくって。

一人の男みたいな顔はしなくて。


「う、ん」
鵺の手があたしの手をつかんで、ヒヤリとした感触に少しだけ驚いた。
いっつも鵺の手は暖かくて、優しいから。

心臓がバクバク動いて、冷や汗が出てきて、熱くて、でも冷たくて。
強く鵺があたしの手を握る。



「俺は、ジェネシスを裏切らない」

苦しむように眉が寄せられて、鵺の眼が下を向く。
ちょっとだけ目を彷徨わせてから、あたしをしっかりと見た。

「あいつらのためにも、裏切らない」
鵺の、今頭に浮かんでるのは、Black Crowの子たちなんだと思う。
小さくて、弱くて、庇護が必要な子たち。


知ってたよ。

ずっとずっと、鵺が護りつづけてるんだもんね。
雷の王なんてなっちゃって、いつだって背伸びして、護りつづけて。


知ってるよ、ずっと見てたんだから。

でも、



「あたしも眠りの森を裏切らないよ」
ごめんね、鵺。

「林檎ちゃんも蜜柑ちゃんも、皆皆大切なの。ごめんね、鵺」
思わず目の端が潤んできて、あたしは息を呑んだ。

違う、泣くのは違う。
だってこのことに後悔なんて一つもしてないんだから、泣くのは違う。


「裏切らない、裏切れない」
その代わり、鵺の手を強く握った。




・・・なぁ、それでも俺は、お前のことが好きだ」
鵺の冷たいけど優しい手があたしの頬に触れて、こつんと額を合わせた。


「あたしも、好きだよ」

でも、どうしようもないっていうのを、この歳で知っちゃった。

社会からみたらたかがA・Tなのかもしれないけど、それでも本当はそんなものじゃない。
死んだり、怪我で二度と立てなくなったり・・・皆、誇りのために闘っていて。



「好き、大好き」
でも、外に出たら、あたしたちは敵同士だから。
鵺に思い切り抱きついた、強く強く抱きついた。


「大好きだよ、鵺」
外に出たら、あたしたちは敵同士だから。


せめて今だけは恋人でいさせて。









( これですら皆を裏切っているようで苦しくてしかたがないけど、それでもあたしはこの人が好き )