この社会は真っ暗だ。

なんて、マフィアに言ってもしょうがないのかもしれない。
上は麻薬禁止、殺人は必要以上は不可、なんて取り決めていても、末端までは通らない。


「なんて、不条理、かしら」
扉を開けて、雨が降る中を歩き出した。

あっというまに服も全部ぬらして、傘をさして歩く人が、あたしを訝しげに見ていた。
でもいいわ!今日だけは見られていたって何にも言わないであげる。

そうやって注目を集めてれば、きっと敬愛する死神にも逢えるんじゃないかって、ありもしない期待をしてみる。



もうこの時間だったら、お茶を入れなきゃいけないころ。

ああ、でも、あんなどれだけ殺したとか、どれだけ麻薬を売ったとか、こそこそと笑いあうような人たちにお茶を注ぐなんて嫌よ(それに、この間お尻も触られたし)。 裏切りじゃないわ、愛想がついただけ。


ヒールの踵がポキリと折れた。

「あーあ」
折角、お気に入りだから大切に使ってたのに。
もうどうでも良くなってきた。


死神に憧れてボンゴレに入ったけど、最悪な上司の下につくことになっちゃうし。
(肝心の死神はチラリと見る程度だし)


「つまんない」 適当なものの上に座ったけど、屋根は無くって、雨があたしに落ちてきた。

ずっと雨に当たってたら、疲労して死んじゃうのかしら(ただでさえ疲れてるんだから)。
でもきっと駄目ね。その前に雨があがっちゃう。

(そしたら帰って、上司に怒られて、いやみ言われて、また明日お茶を注ぐのかしら)



「Bella、そんなところで寝たら、風邪引くぜ?」



膝も抱えてしまったときに、ふと声が聞こえた。

「あら、じゃあ貴方が暖めてくださるの?リボーン様」
「・・・お前、ボンゴレか」
軽く見開いた目に、あたしは微笑を返した。
目の前には、あたしが敬愛する死神。


「ええ。けど死人も麻薬の売れたのも数で誇る上司には到底ついていけずに逃げ出してしまったの」
だからボンゴレじゃないかもね。

そう笑うと、リボーンはは、と笑いを漏らした。
「じゃあ殺してやろうか?」
「ええ、貴方の手になら大歓迎」
笑うと、リボーンは指で銃の形を作って、あたしの米神にあてて、小さくバンと言った。


「これで、その最低な上司の部下のお前は俺に殺された。お前、名前は?」
「え、あたし、あたしは、

。ボンゴレが麻薬ご法度ってことは知ってるな?」
「ええ、もちろん」
ニタリと笑うリボーンに、あたしは頷いた。


「Ok。それがわかってりゃいい。お前に残されたお前は一つ。俺の女になってその最低上司に制裁を下すことだ」
ただし、女っていうのは一生な。

半ばプロポーズの、っていうか多分プロポーズを言った(あれ、なんでこんなことになってるんだっけ)。


「・・・はい」
あたしは差し伸べられる手に、手を重ねた。









( けれど、最後には王子に差し伸べるように手を伸ばす )