「今晩はー」 「おう、こんばっ・・・っ!?」 隼人ってこんばんはって挨拶するんだ・・・なんて思いながら、あたしはにっこりと笑った。 それに対極するように、隼人の顔は凄く青ざめて口をポカンとあけている。 「お、お、お前・・・死んだのかっ!?」 「死んでないわ!つーか彼女が足が無いっていうのに第一声がそれっ!?」 ざけんなぁ!と叩くと、思いっきりスカっと通り抜けた。 別に足が無いっていうのは足がぶった切れてるとかじゃなくて(ぶった切れてるって女としてどうなんだ)、膝から下が透けるようになって消えていってる感じ。 うん、まぁ俗に言う幽霊。 「そう言うときには、何でとかって聞いてそこからドラマ作るんじゃねぇのかよ!」 隼人の朴念仁! 触れないので散々文句をいっていると、隼人があたしをじっと見た。 「それよりも、本当に死んでねぇんだな・・・?」 「え、あ、うん。幽体離脱ってやつ?実は何回かしたことあってさ。人に見えたのは初めてだけど」 ひょっとして霊感あるの?そう言うと、そんなもんはいらねぇと隼人は首を振った(残念・・・あったら面白いのに)。 ということはあたしだけ見えるんだろうか。 「寝てる間にこうなることがあるんだよね。もちろん朝起きたらちゃんと元に戻ってるんだけど・・・。でももしかしたらこれ夢かもね」 「夢?」 「そう、あたしと隼人が見てる夢!」 何であたしが幽霊なのかはしらないけど。 「つーか、じゃねぇと俺の心臓に悪いだろ」 死んでねぇんならいいけどよ・・・と隼人は安心したように溜息を吐いた。 あれ、ひょっとして心配させた、のかな(そりゃ彼女が死んだら心配するよな・・・ちょっと嬉しいっていうのは黙っておこう)。 というか、もしかしたらこれは本当に夢なのかもしれない。 なんたってあたしには幽霊だから感覚は無いし、寒い寒いと腕を擦る人たちが通り過ぎていったのを見たことはあるけど、もしかしたらあの人たちはあたしが頭の中で作り出した人たちかもしれない。 夜に歩くのは寒い、ことは知ってるから。 「ねぇ、隼人。本当に隼人が本物の隼人なら、あたしの知らない隼人のことを教えてよ。あ、今日山本と読んでた本なに?」 「あ?シャマルから貰ったエロほ・・・」 ガバリと隼人が顔を真っ青にして口を抑えた。 ほぅ・・・?彼女がいながらそんなものを・・・(というか山本も普通の男だったんだねぇ・・・)。 まぁ、多分夢の中だし許してやろう(今度したらぶん殴ってやるけど)。 「じゃあ隼人頬抓って」 「ん?・・・」 罪悪感のせいか何なのか、隼人は自分の頬を抓ってみたけど、痛がってる様子は無かった(こういうときは本気でやる人物だから、これは本当なんだ)。 なんてことだ、どうやらこれは夢らしい(だから何であたしは幽霊なの)。 「そういえばこれって俺の夢なのか?」 「え?」 隼人の言葉に首を傾げると、隼人は「の夢にしては俺の部屋細かすぎ」と言った(そうなのか・・・)。 ゆっくりと隼人があたしに手を伸ばした。 「降りて来いよ。ここが俺の夢なら俺の心なわけだろ?そこでが居ないっていうのはおかしいだろ」 そうか、ここは隼人の心なんだ(ということはここで手を重ねたら、あたしは隼人の心の中に飛び込んでいけるんだ)。 そっと手を重ねると、その手は通り抜けることなくゆっくりと重なった。体温は無い。 「多分ここはあたしの夢でもあるから、あたしの心の中に隼人居座ってるんだから、ずっといてよね」 飛び立てない人間になる責任をとって。 あたしはゆっくりと地面に降り立って、そうしたあたしの足には透けない足があった(二度とフワフワと飛ぶことは出来なくなった)。 |