「・・・ごめん、実琴・・・もう一回言ってくんね?」 白衣を着て(あ、ちゃんと仕事だから、コスプレとかじゃないから)聴診器を下げているいかにも医者っぽい感じの実琴が言った言葉に、思わず聞き返した。 いや、うん、だってさ。 「だから、妊娠してるんだって・・・。っていうか、俺専門外なんだから、本当は」 はぁ、と実琴が溜息を吐くけど、俺は医者に関しては実琴以外にかかる気はないので、却下。 っていうか、その前に、 「妊娠って・・・俺、が?」 「に決まってるだろ!相手は秋良だからな!」 先に言っとく、という実琴の声に思わずうっと詰まった。 それ言おうと思ってたのに・・・。 「まあ、冗談は置いといて・・・いや、その・・・妊娠出来るんだなぁって思って」 「恵さんだって妊娠してるけど・・・」 「いやまぁそうなんだけど・・・ほら、俺も元男だったからさ、なのに自分が妊娠するっていうのにすげぇ違和感があるっていうの!?わかるだろ!?わかれ!!」 言っちゃあれだけど、俺にはあれがついてて、昔は妊娠をさせる側、だったんだし。 「・・・まぁ、わからなくはないけど・・・。で?秋良も外にいるんだろ?今呼ぶか、」 「わーーーー!!ちょ、待っ!!・・・ちょ、落ち着かせてくれ、今秋良は呼ばな、」 「もういるよ?」 「――――――――――――――――――――――っっっっ!!!!!!」 こここここここここここ、こわぁあああああ!!!! いつの間にか後ろに立ってるとか、これなんてホラー!?なんてホラー!? 実琴は俺と向き合ってるせいで、俺の背後にこっそり秋良が来ていたことに気付いていたらしい。 ・・・一瞬、実琴さえ気付かないうちに現れたりしなくて良かったと思っちゃった・・・。 「あ、ああ、秋良・・・」 「妊娠、してたんだってね、。・・・嬉しいよ。ありがとう」 そう優しく微笑む秋良はとっても素敵ですが!!素敵なんですけども!! 「俺・・・その・・・」 「・・・怖い?」 言い淀んだ言葉をはっきりと理解したのか、すぱっと返してきた秋良に俺はひとつ頷いた。 「だってまだ俺は女になって男として生きてきた年数さえ越えてないのに・・・こんな俺が、ちゃんとしたお母さんになれるのかって思うと・・・怖くて・・・」 女性の体になることは、秋良の隣に立てる希望を増やしてくれる素敵なことで、だから怖くなかった。 女として生きていくことも、結構楽しいことばっかりだった・・・まぁ、生理はキツかったけど・・・。 でも、母になることは。 「・・・なんだ、産むことが、怖いわけじゃないんだね。・・・・・・堕ろしたい、って言うのかと思った・・・」 ほっとしたような秋良の言葉に、俺は顔をあげた。 「ばっ!堕ろせるわけないだろ!!俺と秋良の両方の命なんだから!」 「じゃあ大丈夫だよ。ね?実琴」 ぽんぽんと俺の頭をなでて、そう実琴に問う秋良の視線につられて、俺も実琴を見た。 「あ、ああ、大丈夫だって。女の人だって最初っから母親ってわけじゃないんだから」 その言葉に同意するように秋良が笑顔で頷いた。 「大丈夫。俺もまだ父親じゃないから、一緒に親になっていこう?ね、」 ああくそう、やっぱり俺は秋良が大好きだっ! 「秋良、好きだぁあああ!!!」 |