「赤ちゃんができたんだけど」

そう告げた途端に、克朗は。

「・・・あ、固まった」

比喩じゃなくて、マジで。
指先をぴくりとも動かさないで固まった克朗を眺めてみるけど、全然動かない。

「・・・あたし、今日のご飯作るよ?」
自分の料理が壊滅的ってことはわかってるから、いつも克朗に作ってもらってるけど。
っていうか、克朗が作るってさっさとしちゃうから無理だったりするんだけど。

でもそう言っても克朗は全然動かずに固まったままだった。
・・・マジで作ろう。




「・・・料理出来たんだけど」
相変わらず壊滅的な見た目だこと。
ほこほこと湯気を立てる料理を目の前においても、いまだに克朗は固まったままだった。

・・・冷めるから仕方がないか。

「かつろー?克朗ー?」
ひらひら目の前で手を振っても、頬を軽く叩いても反応しやしない。
・・・いい加減にしないと。

「克朗、10秒以内に正気に戻らないと、田舎にひっこんで克朗のいないところで産んで、克朗にバレないように育てるけど」
「それは駄目だ!・・・あれ?・・・夕飯が、出来てる?」
一気に正気に戻ったかと思ったら、目の前の料理に目を軽く見開いた。
「まぁ、30分ほど固まってたから」
そう告げたあたしに、克朗がすまなさそうな顔をして、それから口を開いた。

「頭の中で、娘の結婚式に泣く俺の姿が思い浮かんで・・・」
「落ち着け、克朗。まだ生まれてすらないんだけど」
どこまで飛躍してんのよ、あんた。
っていうか、
「それよりももっと大切なことがあるでしょ?」
「大切なこと?」
本気できょとんと首を傾げた克朗に、若干イラっとする。
え、それ本気で言ってる?

「気付かなかったら、田舎にひっこんで克朗のいないところで産んで、克朗にバレないように育てるけど」
「ま!待て!い、今考えるから!!」

云々と唸って考え始める克朗に若干呆れるけど・・・まぁ、鈍感で察しが悪いくせに、人が弱ってると変に鋭いところが克朗だから。
色んな意味で仕方がないか。

!」
「何?やっとわかった?」
パっと顔をあげた克朗に、あたしはにっこりとほほ笑んだ。


「名前は、両方考えておいたほうが、」
「よしわかった。あたし今から田舎に行くわ」





渋沢克朗君に、赤ちゃんができましたって言ってみた。



( 違うでしょ、大馬鹿ものがぁあああ!!!! )