髪の毛が落ちてる床をそぅっと妖精さんのように邪魔にならないようにと箒を滑らせて。 シャンプー後にちょいちょいと指で呼び寄せられれば、もう一個ドライヤーを持ってお手伝い。 「わー!可愛い!やっぱりショートの方が可愛いですよ!」 「今になるとわたしもそう思うんだよねぇ・・・」 ごうごうと熱くなように動かしながら可愛くなったお客様に鏡越しににっこりと笑うと、お客様もにっこりと笑ってくれた。 「それにしても、ふふ、わたしの頭で夫婦の共同作業されると、少しこそばゆいんですけど」 「うぇっ!!」 「あはは。バレちゃったね?」 お客様の少し意地悪そうな視線がちらりと鏡越しにあたしを見て、思わず変な雄たけびをあげた。 っていうか、スピさんは変なこと言わない! 「ち、ちが、違うんですよ?お客様!空いてる人がお手伝いするのは当然で、だから・・・スピさんの馬鹿!」 「ね?僕の奥様可愛いでしょう?・・・と、出来上がりましたよ?」 ごぅーっと音を立てていたドライヤーを切って、むっと隣でしゃあしゃあと鏡で後ろを見せているスピさんを睨みあげる。 ・・・は! いけないいけない、ここでしびれをきらしたら、計画が総崩れしちゃう。 冷静に、冷静にいかないと! 「ちゃーん、ご予約のお客様ご来店です」 「へ、へいらっしゃい!!」 「・・・ちゃん、寿司屋じゃないんだから」 ・・・いけない、動揺したまんまだ。 計画実行、計画実行。 いっつもドキドキされられちゃうんだから、たまには驚かせてやるんだから。 「いらっしゃいませ!本日はどんな髪型にされますか?ショートもエクステも、ちょんまげもござれですけど!」 「ふふっ、ちょんまげは結構です。えっと、ちょっと髪の量が多くて、あまり長さ変えずにすっきりさせたいんですけど」 「了解です!」 ばさり、と大きなケープをお客様にかぶせて、髪の毛に触れる。 うむむ、結構もったりさん。 と、ちらりと時計を見ると、そうこうしてる間にあともう一分になってた。 「・・・と、その前にお客様。少しお待ちいただいててもよろしいですか?」 「?はい、大丈夫ですけど」 お客様に少し待ってもらって、あたしは皆の手が丁度お客様の髪から離れた瞬間を見計らって、ずびしと天高く空に手を挙げた。 「ちゅうもーっく!!」 「!?・・・?」 きょとん、としたスピさんとかお客様の視線を集めるけれど、気にしない気にしない。 ちらりとスタッフの人たちと視線を交わし合って、こっくりと頷き合った。 んーっと、あと・・・5、4、3・・・。 「・・・2、1・・・」 「?」 「0!スピさん、お誕生日おめでとー!」 「「「おめでとうございます!!」」」 いぇい!っとこっそり隠してた音の小さなゴミの出ないクラッカーを取り出して、全員で紐を引いた。 「・・・え?あれ・・・今日って・・・誕生日だったっけ・・・?」 ボンヤリと電子カレンダーの日付を見て、ぽかんとした顔でスピさんが言う。 うんうん、スピさんがこんな驚いた顔するのなんて初めて見た。 お客様もおめでとうございます、といって拍手してくれてるのに、スピさんが笑顔で返した。 「というわけで!プレゼントがあるの!」 ここからは誰にも言ってない、あたしだけの計画。 スタッフの人たちもなんだろうとじっと見つめてくるのを見ながら、ゆっくりとスピさんに近寄ってくる。 不思議そうにしているスピさんのすぐ近くまでくると、ぎゅっとスピさんの手を掴んだ。 それから、そっとひっぱって。 「ねぇ?スピさん」 「・・・?」 あたしのお腹にあてて、その手の上からあたしの手を重ねて閉じ込めた。 「名前、何にする?」 「―――!」 さっきよりも驚いた顔と拍手にあたしは大満足して、手を離すと思いっきりスピさんに飛びついた。 ね?あたしの旦那様可愛いでしょう? |