「ただいま」 「留三郎!おかえりなさい」 玄関でにこにこと笑う留三郎を笑顔で迎えると、ゆっくりと留三郎があたしの頭を撫でた。 「今年は無事夏休みが補習でつぶれなかったのね?」 「ぐっ・・・。痛いところをさらりと・・・」 胸を押さえて痛そうな顔をする留三郎の荷物を受け取って、それから部屋の中に入る。 教員の夏休み開始から10日。 うーん、今年はまだマシな方かな・・・? 「今年の一年生はトラブルメーカー1のはの再来って言われてるっていうのに、気安く担任を受けるからそういうことになるのよ」 「・・・いや、だって・・・」 「土井先生ならまだしも。留三郎に1はを抑えきれるとは思えないけど?」 出席をとる、の一言で1は全員を集めてみせる土井先生の手腕に叶う人なんていないと思うんだけど。 あと、11人同時に喋った言葉を1はの生徒限定で聞きわけたとか、なんとか。 「そ、そんなことない!俺が後は、じゃない・・・生徒を思う気持ちは誰にも負けないっ!」 「・・・ショタコンで訴えるわよ?」 ガッツポーズで言うことじゃないと思うわ、留三郎。 まぁ、そういうところが好きで結婚したんだけどさぁ・・・。 「・・・まぁいいや。折角留三郎が帰ってきてくれたんだもの。こういう話はやめよっか。それに、聞いてほしいこともあるし」 「聞いてほしいこと?」 「うん」 囲炉裏の前に二人して座って、自然と腰に手を回して支えてくれる留三郎の肩にゆっくりともたれる。 「あのね?二ヶ月くらい前にお休みを貰って帰ってきてくれた日があったでしょ?」 「ん?ああ、そういえばそうだったか」 さらり、と留三郎の手があたしの前髪に触れる。 「その一ヶ月後ぐらいに丁度伊作が、また不運のループに陥ったらしくって引っ越しするついでに遊びにきてくれたんだけど」 「・・・またあいつ忍を治療して、情報を狙われるようになったのか・・・」 「伊作が改めるつもりがないから、もう無理な話じゃないかしら」 「・・・うーん」 町医者になるつもりが、忍を治療しては噂が広まり情報を狙われるようになってお引っ越し、なんて不運のループを刻み続けてる伊作のまたしてもの引っ越しに、留三郎が顎に手を添えて唸る。 もう伊作の不運はどうしようもないと思うんだけどなぁ・・・。 「それでね、ついでに見てもらったんだけど、」 「!どこか体調でも悪いのか!?」 ぐわっとただでさえ鋭い目をさらに鋭くして勢いよくあたしを見る留三郎に、思わず苦笑が浮かんだ。 「そうじゃないわよ、パパ」 「そ、うか・・・それならよか・・・・・・ぱぱ?」 かと思うと、今度はきょとんと眼を丸くしてあたしを見る可愛い旦那様を見上げて、あたしはにっこりと笑った。 「丁度今日で二カ月目ですって、旦那様」 お腹に手を当てて、人差し指と真ん中の指を立てて、ぶいっとポーズを決める。 時代考証まるっきり無視とか、そんなこと言っちゃダメなのよ。 それと同時に、あたしの腰に回されていた腕と反対の腕があたしを抱きしめるように包んで、ぎゅっと、でも苦しくないくらいに留三郎に抱きしめられた。 「ありがとう・・・。本当に、ありがとう・・・!」 ぎゅうって抱きしめてくれて嬉しそうに言うけれど・・・大事なこと忘れてないわよね?旦那様? そっと留三郎から体を離して、喜色満面の顔の留三郎にあたしはにっこりと笑った。 「というわけで、産み時に帰ってきたかったら、死ぬ気で生徒達が補習無しになるように頑張ってね?ぱ・ぱ?」 産むときくらい帰ってきてくれないと、伝子さんの顔でお出迎えしちゃうから。 |