「恭弥」 あたしの手を握ったまま動かない恭弥に、あたしは名前を呼んだ。 強く握られた手は、それでも優しくて、痛みなんて感じない。 存外、イメージよりも暖かな手はあたしの手をもう1時間も包んだままで、もうどっちがどっちの体温かなんてわからない。 このまま、ずっと手を繋いでいるのも、それはすごく素敵なことだなぁと思うのだけれど、このままじゃどうしようもない。 だって、知ってるよ、恭弥。もうすぐ貴方はイタリアに行ってしまうんでしょう。 「」 恭弥があたしの名前を呼んだ。 低くて硬質なその声は、あたしを呼ぶときだけ少しだけ柔らかくなった(あたしがそう感じてるだけかもしれないけど)。 ゆるゆると、恭弥が顔を上げて、手を握っていた片方の手があたしの頬に触れた。酷く緩慢で、時間が遅く感じた。 「きょう、や」 一つ、恭弥の名を呟くと、そのまま吸いこむみたいに恭弥の男の人なのに柔らかい唇があたしの唇と重なる。 さようならって恭弥が言ったら、あたしは何を言えばいいんだろう。 中学校も高校も、楽しかったねぇなんていえばいいんだろうか。 多分無理なんだろうな。もう一つ落とされる口付けに目を閉じながらも考えた。 だって、恭弥にさようならなんて言われたら、泣いて泣いて、何もいえなくなっちゃうんだと思う。 あたしは恭弥が大好きで、大好きで、それこそ、呆れちゃうほどに好きで。 「、話があるんだ」 瞼に一つ恭弥の唇が下りた。 「なぁに?」 大丈夫、最後の言葉までちゃんと聞くよ。 だから、泣いてしまったら抱きしめてね、恭弥。 「綱吉と一緒に、イタリアに行ってくるよ」 イタリアの有名なマフィアで、そのボスになるんだよね、綱吉は。 そうだね、一人じゃ頼りないから、恭弥も一緒に居てあげなくちゃいけないよね。 ゆるゆると、恭弥はあたしの頬を撫でて、額にキスを落とした(最後だからなのかな、すごく優しい)。 「だから・・・」 ゴクリ、恭弥が言葉を飲み込んだ。 恭弥が、あの五文字を口にしてしまう。 すごくすごく辛くて哀しくて仕方が無かったけど、涙が出そうだけど、最後まで言葉を聞こうとあたしは恭弥の目を見つめた。 「」 恭弥が低くて硬質なその声で、あたしの名前を柔らかく呼ぶ。 「うん」 じっと視線が絡み合って、そのまま吸い込まれるようにキスをした。 男の人なのに恭弥の唇は柔らかくて、最後なんだと思うと、涙が出そうになった。 「一緒においでよ」 「え」 突然の言葉に、あたしは恭弥の顔を見上げた。 男の人なのに白い肌は、恭弥の頬の辺りだけ赤くなっていた。 一つ一つ、言葉を噛み締めて、やっと頭にたどり着いたそれに、あたしの頬も赤く染まっていくような気がした。 「うんっ!」 泣いてしまったら抱きしめてね、恭弥。 真っ赤に染まる頬に、あたしは喜びのキスを落とした。 |