「あおぉげばぁ、とぉとしぃ、わがぁしのぉ、おん〜」


手に、ソツギョウショウショ、なんてものの入った筒をぶら下げて、まだ桜の咲かない桜並木をが前を歩く。

ああ、そういえば、桜は4月だ。

「下手くそ」
「うっさいっ!」

本当のことを言うと、眉を八の字にして、怒ったような顔のがこっちを向いた。


もう、このやりとりも出来ないんだろう(大学は、別、だから)。
やべぇ、なんか、カンショウテキ、だ。

「桜ってさ、寒ければ寒いほど、綺麗に咲くんだって」
蕾すらついていないような桜の木を見あげて、が呟いた。
「へぇ・・・」
「でも、今年は暖かかったからねぇ」
綺麗に咲くのかな。

見あげた枝の端から見える雲が、桜の花みたいに、集まっていた。

「オンダンカだからな」
「温暖化だよ、馬鹿鵺」
「うっせぇ。知ってるっつの」

ケラケラ笑いあって、手にもった、卒業証書とやらが入った、筒をブンブン振り回す。


ああ、もう、こんなやりとりも出来ねぇ(って、さっきも思った)。


「もう、こんなやりとりも出来なくなるのかな」


前を向いたまま(俺に背を向けたまま)、が突然言い出した。
ちょっとだけ、心を読まれたんじゃねぇのか、って思った。

「別々だしな、大学」
「合格、しちゃってるもんね」

今さらだよね。

の肩は震えていて、馬鹿だろ、こいつ。なんて思った。


「泣いてる?」
「泣かないっ!ブスになるから!」

絶対泣いてるだろ。
むしろ、堪えてるから、肩が震える。

「やっぱ、泣いてんだろ」
「式の時泣いたから、涙も枯れたっ!」
バーカ、といって、肩を抱きしめて顔を覗き込んだら、やっぱり泣いていた。

「泣いてるじゃねぇか」
「泣いてないってっ!ブスになるからっ!」

「うん、ブス」
「ばかっ!」

泣きじゃくるを胸に招いて、孤児院のチビ共を慰めるようにポンポン背中を叩いてやった。



「何で、違う大学なんて選ぶのよ、馬鹿っ!」
「馬鹿馬鹿言い過ぎ。んで、理不尽」

離れていても、心は繋がってるよ、なんて確証無いこと言えねぇし。

教科書に書いてあった、現代人って、本当に語彙が少ねぇ。

「っ、浮気したり、合コンいったり、別の女にうつつ抜かしたら、刺すっ!」
「怖ぇっつーの」
「嘘じゃないよ、本気だからねっ!」


ああ、カミサマ(今までその存在すら信じたことなんて無ぇけど)、もしいるのなら、どうか教えてください。

胸の中で泣く意地っ張りの恋人に、絶対にお前以外惚れるかよバーカ、の同じ意味の言葉を。








( 歯の浮くようなセリフだって、なんだって、言ってみせるというのに )