「はい、ちゃん」

ことん、と目の前に置かれたマグカップは、暖かそうな湯気を立てていた。



皆がいる船の先端の方の甲板じゃなくて、その裏側に一人座り込んでいた私に、サンジさんが飲み物を持ってきてくれた。
「ありがとうございます、サンジさん」
「いーや、ちゃんの笑顔が見れるなら、なんの苦でもねぇよ」
にっこりと笑ってそう言うサンジさんに、思わず笑みがこぼれる。

サンジさんは女性に優しい人だ。
それには私も一応例外じゃないらしい。
よい香りのする液体に少し息を吹きかけてから口を付けた。

「―――おいしい」
ぽつり、と零すとサンジさんがまた嬉しそうな顔をする。
「そりゃ、良かった」
その時に、さらりと頭をなでられた。


なんだか、その時に少しだけ心に重たいものが積み重なる。
サンジさんは何も悪くない、きっと、悪いのは私の心だ。
もう一般的に大人として認められていた私が、今こうして子どもになってしまって、そうして子どもとして扱われると、心が軋む音がする。
勿論姿は13歳の女の子でしかないんだから、これを成人女性として扱えなんて無理な話だと思う。

それでも、子どもとして扱われることに、大人である私が悲鳴をあげる。
まるで、無理しなくていいんだよと、してもいない無理に同情されているようで、認められていないかのようで、苦しくなる。

なんて、勝手な都合だろう。
そんなことサンジさんは知りもしないのに、そんなこと思ってちゃだめなのに。


「それには、気持ちが軽くなる効果があるんだよ」
「・・・え?」
「憂いの表情のレディも可愛らしいけど、笑顔の方がもっと可愛らしいよ」
にっこり、とほほ笑むサンジさんに、思わず噴き出した。
そのセリフは、ちょっとクサい。

「ふふっ・・・・・・うん、ありがとう、サンジさん」
「どういたしまして、レディ」

レモンの香りがマグカップから、フワリと香る。
大人じゃなくて子どもだって思われても。
それでも、ちゃんと私は仲間だって言ってくれてる気がした。





大人と子どもの境界線



( 子どもだけど、大人だった私、大人だけど、子どもな私 )