「ごめんね、ごめんねっ」 ボロボロ涙が出てきた。 シワクチャになった真っ黒なシーツの上に広がるタオルといくつかのティッシュの残骸と床に脱ぎ捨てられた服。 その真ん中で泣くあたし。 隼人はそんなあたしの前に座って覗き込みながら、裸のままのあたしに優しくシャツをかけてくれた。 「いっぱいいっぱいビデオとか本とかで勉強したのに」 巷で有名らしいエーブイも見て、初ものばっかりの小説だって読んで、流れだって分かった。 隼人が何してくるかとか、どうなって、そうなって、そうして終わるのかってのも、大体分かった。 画面の中であんあん喘いでる女の人を見て、男の人はこんな顔に欲情すんのかって研究もしたんだ。 っていうと、隼人は少し変な顔をして苦笑した。 「何見てんだよ、」 何だかちょっとだけ嬉しそうな顔をした隼人があたしの目から溢れて手を伝って腕に滑り落ちていく涙を拭った。 その手がすごく優しくて、その分情けなくて情けなくて、涙が出た。 「初めてって痛いっていうから」 すんっと鼻を吸って一呼吸した。 「うん、痛かったか?」 不安そうに聞いてくる隼人に、正直に「結構」と頷いた(案の定隼人は少し悲しそうな顔をした)。 「だからでも、可愛く見えるようにって」 痛みで凄い顔して、隼人に嫌われたらいやだから。 男女で絡み合う行為に可愛さとかそんなものを求めてもどうなんだっていう気はするんだけど。 それでも隼人には可愛かったなって思われたい(だって好きで好きで好きでどうしたらいいのかわからない)。 「なのに、始まったら頭の中真っ白になって」 隼人じゃなくてその行為がすごく怖くなってきて。 どうしてかわんないけど、すごく怖くて怖くて仕方がなくなってきて。 「ビデオで見たことみたいなのがどんどん進んでいって、研究したこととか思い出そうとしても思い出すの全部隼人で、頭ん中隼人ばっかりで、目の前も隼人で、全部隼人ばっかりで」 またボロボロ涙が溢れてきた。 「気持ちいいとか、痛いとか、そんなの全部置いて頭の中隼人で」 それ以外何にも考えられなくなって、頭の中に走馬灯みたいに(ああ、でも走馬灯とは違って)隼人ばっかり浮かんで巡って、ぐるぐるそればっかりで。 君は笑うのかな、笑ってしまうんだろうか。 こんなにも君を好きすぎて好きすぎてしょうがないあたしを(君はどう思うのかな)。 凄い可愛い喘ぎ方も、迫り方も、誘い方も出来なくって、あたしは全然可愛くもなくただ行為に恐怖を感じながらされるがままに声を上げて、全然隼人に何もしてあげられなくて、だから。 「ごめんね、隼人」 また一つ涙が伝って、それを隼人が舐めてあたしを抱きしめた。 「、今度は男の心理も研究しとけ」 そうしてあたしたちはまた、シワクチャになった真っ黒なシーツの上に広がるタオルといくつかのティッシュの残骸と床に脱ぎ捨てられた服の真ん中に沈んだ。 隼人が肩にかけてくれた白のシャツは黒い海の中であたしを浮かばせて、空には真っ白な天井と隼人だけが映った。 ああ、またあたしを不細工にさせてしまう行為が始まるようだけれど、どうやら隼人はそうは感じてないみたいで、あたしを嫌いにはなってないみたい。 安心してひとつ息を吐いて、隼人がくれるままの愛情を噛み締めた。 「好き、好き大好き、隼人」 だから今度こそ隼人のために可愛くなれるようにって必死で頭をめぐらせても、やっぱり浮かんだのは隼人だけだった。 . |