手が冷たい人は心が温かいんだって。 逆に、手が暖かい人は心が冷たいんだって。 何気無い会話の一端を聞いて、あたしは隼人のところまで歩いていった。 「はやとー」 「?」 愛想も無く振り返るのは、片思いのお相手の隼人。 沢田の忠犬の彼は、沢田に悪意的でも好意的でもない(結局は無関心な)あたしに敵対意識は無かったものの、基本女子は嫌いらしいのであまり好意的でもなく。 けれど、そんな彼は顔がいいのでモテモテだった。 そんな彼に逃げるお手伝いをしてから仲良くなったのでした。 女子の方々に睨まれたけど、隼人とヤンマガ(スタイルいいお姉さんとか一杯のってるやつ)を見て騒いでたら何時の間にか睨まれなくなった。 女扱いされてないってやつか(いや、でもスタイルいいお姉さん見るのって楽しいし、それを見る隼人の反応はさらに楽しいし)。 兎に角、何がいいたいのかっていうと、あたしと隼人は今のところ友人だ。 (別に、思いを伝えようとかそんな気持ちが無いから尚更) 「手出して、手」 「手?」 ふと気付いたら沢田も一緒にいたらしい。 すまないね、恋する乙女ってやつだから隼人しか目に入らなかったのさ(実は影に入ってて見えなかっただけなんだけど)。 「ん」 差し出された手を、とりあえずあたしは掴んでみた。 む・・・冷たい、ことはないけど・・・暖かくも無い。 うわ、指細い。 そういえば、隼人ってピアノしてたんだっけ。 「温度微妙。ってことは、中間なのかな」 「何が?」 そう首を傾げたのは、隼人の反対隣に居た沢田だった。 「手が冷たい人は心が温かくて、手が暖かい人は心が冷たいんだって。って聞いて」 隼人はどうかなぁって試してみた。 そう言うと、隼人の眉間に皺がよった。 「アホくせっ」 んなわけあるか。ってはき捨てるように言った。 「それじゃあ十代目の手が冷たくなきゃいけねぇだろうが!」 ・・・出た、十代目馬鹿。 何で沢田が十代目って呼ばれてるかはしらないけど、とにかく隼人は沢田に敬意を表していっているらしい。 ためしに沢田の手も握ってみると、結構暖かかった。 「あー・・・たしかに」 沢田の性格が冷たいなんて想わないもんなー。 ってことは、やっぱり手は関係ないのか。 「じゃあ、沢田は例外ってことにしよう」 そう言うと隼人が食いついてきたので、特別ってことだよ、特別といって誤魔化した。 「やっぱり隼人が手が冷たいなんてありえないね!」 てい、と隼人の手をにぎゅーっと握ってやった。 熱よ移れー! 「・・・何やってんだよ」 隼人の手を擦ったりしてると、隼人がすごく変な顔をした。 「熱をうつして隼人の手をあったかくして、心を冷たくしようかと!」 「阿呆だろ」 隼人がすごく呆れたように言う。 む、両手挟んだままじゃ中々上手く温まらないなぁ・・・。 「よし、沢田!沢田は左手担当ね!」 「え、俺も!?」 驚いてる沢田にはい、と隼人の左手を渡す前に、その左手はベシっとはじかれた。 「何やってんだよ、馬鹿女」 十代目に迷惑かけるな、といってその両手が伸びてきた。 あれ、伸びて、きた? 「―――っ!」 冷たくもなく暖かくもない手が、あたしの頬の奥の耳の下あたりにペッタリとついた。 挟むように、両手が両方について。 「うわ、ぬくー」 熱でもあるんじゃねぇの、という隼人にあたしはどんどん体中の熱が集まってきた。 ああああ、絶対に体温が上がってるっ! 「な、なな、な」 「菜?」 ああもう、典型的ボケをしないでよ!! 「何すんじゃボケぇ!!!」 思いっきり隼人の椅子を蹴った(本人はさすがに蹴れなかった)。 「うぉっ!!」 油断してた隼人が倒れていって、教室にいる生徒の目が集まってきた。 「この歩くセクシャルハラスメント保険医2号めーーー!!!」 うぉおおお!とあたしは男らしく叫んで、思いっきり教室を飛び出した。 は、隼人のあほぉおおお!!! 「じゅ、十代目・・・俺は一体なんで蹴られたんでしょうか」 「うん、100%獄寺君のせいだと思うよ、っていうかさっさと追いかけてきたほうがいいよ」 「も、教室帰れない・・・」 どうしよう、とあたしは屋上で膝を抱えた。 やばい、隼人は天然でやったのに逃げ出すってどれだけ最低なんだ、あたし。 いや、でも天然だからって突然やった隼人にも原因があるだろ、うん。 そう考えてるとけたたましい足音がして、突き破るように扉が開いたのであたしは目を閉じた。 に、忍法狸寝入りだっ!! 「おい、。・・・起きろ」 やっぱり思ったとおりやってきたのは隼人で、あたしの肩を揺らした。 な、なんで追ってくるんだ・・・!ひょっとして制裁されるっ!? あたしは目を開けることが出来なくて、そのまま瞑ってた。 「なぁ、何で逃げたんだよ」 何か、声が近くないですか・・・? 思ったより声が近くで聞こえて、あたしは内心怯んだ。 何で逃げたって、そりゃ・・・ねぇ?(ってもわかんないだろうけどさ!) 「なぁ・・・勝手に解釈するぞ、コラ」 何が解釈だっつーの。 このセクシャルハラスメント保険医二号、 ちゅ。 二号、め・・・・・・・・・・・・・・・・・・め? 「ぎゃ、ぎゃああああ!!!!」 「うぉ!」 想いっきり目の前の隼人を突き飛ばした。 こ、こいつ、何した、何しやがった、キスしやがったぁああ!!! 「いって。つーかてめぇ起きてたのかよ!」 「う、うう、うっさいわ、このシャマル二号めがっ!」 え、っていうか何であたしはキスされたわけ!?キス、ん?キスなのか?いや、いやいやいや、もしかしたらあれだ、豆腐押し付けたとか、ゼリー押し付けたとか。 「って、ゼリーはどこだ!」 「は?」 隼人がすごく不思議そうな顔をした。 「だ、だまされないからな!ゼリーだろ!はたまた豆腐なんだろ!あれはチッスじゃねぇんだろ!だ、騙されるものか!あたしを有頂天まで持ち上げてそこから一気に叩き落す気なんだな!」 この悪男めが! そう叫ぶと、隼人の顔がずいっと近づいてきた。 「なぁ」 「な、何っ・・・!」 ち、近い・・・近いって、隼人! 「もう一回してもいいか?」 え、いや、何を? そう考えてる間に、またどんどん顔が近くなってきた。 「い、いやいやいや!待ってくださいって隼人さん!あれ、ひょっとして勘違いじゃなかったら、今はあたしはチッスされそうになってるんでしょうか」 「いや、何で敬語・・・。つーかそれ以外ねぇだろ」 そうかー、隼人はあたしにキスをするのか。 って、待て!! 「ふ、普通それってする前に言うことってあるんじゃないでしょうか!」 じゃないと隼人さん、あなた好きでもない女の子にキスする最低な人ですからね! そう叫ぶと、ああ、と隼人が言った。 「好きだ、」 ふわりと、あまりにも幸せそうな顔で笑うから。 そっと隼人の手があたしの頬に触れた。 急いで走ってきたせいなのか、その手は冷たくて。 あっという間に隼人の口があたしの口にくっついて、隼人が優しく頬を撫でた。 心が暖かい人の手は、冷たい、んだっけ。 「・・・はっ、」 息がもれて、ゆっくりと口が離れた。 「・・・」 「?」 怪訝そうな顔をしてる隼人を想いっきり睨んだ。 「使い分けかよコノヤロー!でも大好きだー!」 ちくしょー!と叫ぶと、隼人は分かってないくせに幸せそうに笑った。 |