「おはよう、了平。今日も良い天気ね」 そう言って、あたしは了平の頬にキスを落とす。 (これは一つの、ボクシングへと突っ走る彼を僅かに引き留める手段だ) 「ああ、極限に良い天気だな!」 そうして、了平もあたしの頬にキスを落としてくれる。 例え、近所の人の目があったとしても。 (朝には挨拶のキスを、帰りにはさようならのキスを、と彼はそのまま鵜呑みに頷いて今日までいたっている) そうして、あたしの心は今日も晴れる。 「ねぇ、了平。今日は了平の誕生日でしょう?ケーキを焼くから、家に遊びに来てね」 「うむ!――そういえば、今日は母さんと京子がご馳走にすると言っていたから、も来い」 そうして、あたしの心は、ちょっと下降する。 「うん、じゃあ行くわ」 本当は二人で過ごしたかったのよ。 紙で縛っただけじゃ、まだ足りない(戸籍が同じになったって、いるところが一緒じゃなくちゃ)。 卒業して、了平の進路(マフィア)に慣れてからじゃないと、なんて、凄く嫌。 「了平」 一日でも早く、傍に居て、一緒に暮らして、一緒に朝を迎えたいの。 貴方を捕まえておくだけでいい、なんて最初の願いはどこへやら。 「何だ、」 呼ばれるだけじゃ足りない、酸素を一度取り込んだあたしの体は、もっともっと酸素をほしがりつづける。 怖いくらい。 きょとんとした了平があたしを見た。 「キスして」 「こ・・・!ここでか!?」 了平が少し顔を赤らめて、忙しなく周りを見る。 そうね、そういえば、ここ下駄箱だったわ。 なら――あたしは、了平の腕を取って歩き出した。朝は何だかんだで皆真面目に教室に向かうんだもの。 ガランとした階段下で、急いでキスをした。 唇と唇が触れ合って、了平の歯列をなぞって、僅かに開いた隙間から舌を滑り込ませると、その舌はあっさりと了平の舌に絡め取られた。 腰に回る手も、頭を掴む手も、キスをするときの普段からは考えもつかないような凄艶な顔も。 全部全部、この瞬間が、了平の舌の熱さとか、あたしが手を回す背中の逞しさとか、今全部。 「・・・っは、」 全部あたしのもの。 頭がボーっとして、あたしはそのまま了平の胸に頭を預けた。 キスが終わった後に、了平が優しく優しくあたしの背中を撫でてくれる時間がとても好き。 それよりも何よりも、あたしは、了平がとても好き(愛を語るにはまだ過ごした時は短いけど)。 離したくないわ、ううん、もう離せないのよ、あたしは貴方を。 「お誕生日、おめでとう。了平」 顔を上げて、目と目を合わせて言うと、了平がニカっと笑った。 「ああ!」 そうして、もう一度だけ。 今度は触れ合うだけの口付けをした。 |