「・・・たいきせんせい」 ぽつり、と消え入りそうな声で呟かれたその自分の名前に、騒がしい教室の中大気はくるりと振り返った。 「どうしたんですか?」 は何かを隠すように片手を後ろにしたまま、大気の元へと近づいていき、ぎゅ、っとズボンの裾を握った。 「・・・これ」 「?」 もじもじしながら背に隠していた手を、屈んだ大気の目の前へと差し出した。 「・・・おや、花、ですか?」 「きれい、だったから。お花さんに、ごめんなさいして、もらって来たの」 ぽつり、ぽつりと小さな声で呟くに、大気はにっこりと頬笑みを浮かべた。 「これを私に?」 「・・・うん」 じ、っと不安げに見上げてくるに、大気は優しい頬笑みを浮かべた。 それから、ふいにその花の本数に気付いて、小さな手から花を受け取ると、二本のうち、一本をつまむ。 「ありがとうございます・・・でも、こうした方がもっと花も綺麗ですよ」 それから、そっとの耳にかけるように花を髪にさしこんだ。 小さいながらに存在を主張するような赤の花がワンポイントのように髪を飾る。 「折角のお花ですし、枯れたら哀しいので、押し花にしましょうね」 「おし花・・・?」 「この後すぐ延長保育の時間ですから、その時に教えましょうね」 「・・・うん!」 ぱぁ!っと笑顔を浮かべたまま自分の後ろをてこてことついてくるに、大気は笑みを浮かべる。 今まで同じ歳の子にもどの先生にも懐かなかった子どもが、ただ一人、自分だけに懐いているという事実はかなりの優越感を誘われるものだ。 先日、星野なんてじっと嫌そうに見られた後そのまま顔を逸らされて無視をされていたほどなのだから。 「せんせい・・・あのね」 「ん?どうしたんですか?」 とてて、と音をたてズボンをぎゅっと握ってくる小さな子どもの愛らしさに頬が緩む。 「大気せんせい、大好き」 「私も大好きですよ、」 にっこりとほほ笑むに、大気も柔らかな笑みを浮かべた。 |