「あ、あの!あたしどこに連れて行かれるんですか!?」


ビュン、ビュン、と流れる景色に息を呑みながら、あたしをお姫様抱っこで抱えるスピさんを見上げた。

「んー内緒」
ニコ、と笑って言われるけど、正直怖いから!
けど、今離されたら確実に死ぬので、スピさんから怖くて離れられない。


。現在拉致道一直線。


「ってそんなの嫌だぁああああああ!!!!!!」



「鵺ー?」

よく晴れたある日。
あたしは幼馴染の鵺の家へと、もらった合鍵で入り込んだ。
どうやら子ども達は皆公園に行ってしまったらしくて、いつも騒がしい家は、ガランとしていた。

また、A・Tで試合とかしてるのかなぁ・・・。

下駄箱からなくなってたA・Tに、あたしは小さく溜息をついた。
鵺は、なにやらA・Tでかなり有名な人らしい。
でも、あたしはA・Tはできなくて、鵺は何も教えてくれない。

まぁ、教えられても、結局何も出来ないんだけどさ。



「どちら様?」
奥からやってきた、芸能人バリの美形に、あたしはカチンと固まった。

「は、は、初めまして!です。えっと、鵺の知り合いですか・・・?」
あたしが心の中で、ギャーギャー叫びながら頭を下げると、その人は苦笑した。

「まぁ、そんなところだね。僕はスピット・ファイア。好きなように呼んでくれて構わないよ」

ニコヤカに言うスピさんに、あたしは恐る恐る聞いた。
「あの、鵺居ないみたいなんですけど・・・」
どこを見ても居ない幼馴染に、お客さんが来てるのに、と溜息を吐くと、スピさんが苦笑した。
「そうだね。折角迎えに来たのに、どうやら逃げてしまったみたいだ」
迎えに来た、っていうのは、A・T関係なのだろうか・・・この人A・T持ってるし。
そうあたしが考えてると、スピさんはポン、と思いついたように手を打った。


「・・・もしもし?鵺君?」
携帯電話を片手に、多分鵺へとかける。携帯があるなら、早くかければよかったのに。
すると、スピさんがあたしに近づいてきた。

「うーん・・・そんなに調律がいやかい?」


チューナーと聞こえて、あたしは首を傾げた。
調律ってことは、大切なことだし、それをどうして嫌がるんだろう。
そう思っていると、突然体が宙に浮いた。


「君の幼馴染、ちょっと借りてくね」

『はぁ!?』

近くに、電話越しの鵺の声が聞こえた。
「あ、あの・・・スピさん・・・?」
「じゃあ、行こうか、ちゃん」


ニッコリ、と笑った笑顔に、一瞬見ほれた隙に、あたしは空へと飛んでいた。





始まり早々、誘拐ってアリですか!?



( アリなの!?――アリです!! )


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