パタパタと音を立てながら階段を上る。 きっと多分神経質なあの人のことだから、この音で起きるだろうし。 っていうか、こんなことしなくたって、あの人は一人でちゃんと起きて学校に行くんだけど・・・。 「ユーウにーーい!!」 バンっと扉を開いて、ベッドにいっちょくせ、 「うぜぇ」 「ふぎゃっ!!」 は、払いのけられたぁっ! 顔から思いっきり床に転がったせいで、今日も低いあたしの鼻が一段と低くなった気がするよ。 酷い、ユウにい。 あたしのうめき声なんて一切気にせずに、ユウにいはベッドから降りる。 それからちらりともあたしを見ないまま着替え始めた。 ・・・っていうか、あたしがいるんだから、着替えを躊躇うとか気にするとか・・・したら、ユウにいじゃないな・・・。 「ユウにい、おはよう!」 「・・・」 「おーはーよーうっ!!」 「・・・ああ」 上着を脱いだユウにいの背中を叩いて声をかけると無言で返ってきたから、ユウにいがちゃんと返事をするまで裸の背中をバチバチと叩く。 あら、もみじがきれい。 朝の挨拶は人としての大切なコミュニケーションですからね! 「ユウにいったら、服散らかしちゃダメだってば。もう」 「・・・ちっ」 豪快に脱ぎ捨てて放置されてるパジャマを拾い上げて、簡単にたたむ。 というかね、一応幼馴染で年下とはいえ、年頃の女の子がいる前でトランクス姿はどうかと思うの。 ・・・いや、もう慣れたけど。 「朝ごはん下に準備してあるよ」 「・・・蕎麦だろうな・・・」 そうぎろりとあたしを睨む。 相変わらず蕎麦大好きだね、ユウにい・・・。 「朝から蕎麦は食べません。ご飯と鮭と冷ややっことお味噌汁。あと海苔も」 「ちっ、仕方がねぇな」 ユウにいのところはお母さんがいなくて、お父さんも海外に旅に出ずっぱりの人だから、ほとんどユウにいは一人暮らし状態だ。 ・・・ご飯作れないけど。 うちも両親が忙しいからあたしが家事の係なんだよね・・・洗剤を5杯も6杯も当然のように入れる人に家事は任せられないし・・・。 包丁なんて持った日には、手が血みどろになるんだから・・・!!恐ろしや恐ろしや・・・!! あったかいご飯を入り込む日差しを受けながらゆっくりと食べる。 リビングに飾られた小父さんの描いた風景画を見てると、なんだか落ち着くんだよね。 「はい、ユウにい。今日のおべんとう・・・お蕎麦じゃないからね?」 「わかってんだよ、そんなことは。・・・おい、それよりも」 ちっとまた舌打ちをしながらお弁当を受け取ってくれるユウにいがぎろりとあたしを睨んだ。 「はいはい、ちゃーんと外では神田先輩って呼んでるでしょ」 毎日忠告して飽きないもんだよなぁ。 最初外では神田って呼べって言われた時に、ユウにいって呼ばれるの嫌なの!?って泣きわめいてたけど、結局ユウにいは外で自分の下の名前が知られるのが嫌なだけだったらしい。 ・・・可愛いのに(だから嫌なんだろうけど)。 「鍵閉めたか?」 「うん!」 最早自分の家が着替えとお風呂と寝るくらいにしか使われてないのは、自分でもちょっとどうかとは思ってるけど。 そう確認するユウにいの前でがちゃっとドアを引っ張ってみせて、それからユウにいの家の鍵をぽっけにしまった。 「じゃ、行こ!」 「ああ」 神田ユウ。 お隣さんで二つ上の幼馴染で我儘で傲慢で勝手でぶっきらぼうで容赦なくて、だけど超美人さんな。 世界で誰よりも大好きな人です。 |