近くのスーパーで買い物をして、おうちに帰って冷蔵庫に入れた後に着替えて洗濯物を取り込んでたたんで。
ユウにいが返ってくる時間に合わせて、きっかりとぐつぐつと程よくなるように煮込んでいるハンバーグを作りながら、テーブルの準備をしていく。

うん、やっぱりね、お母さんだと思う・・・あたし。


ガチャリ、と鍵をあける音がして扉が開く。
この家の鍵はあたしとユウにいと小父さんしか持ってないから、消去法でユウにいしかありえない。
簡単に手を洗って、あたしは玄関まで歩いていく。

「おかえりなさーい」
「・・・ああ」
いつも以上にぶっきらぼうな返事に首を傾げてると、突然見知らぬ声が響いた。

「あれ!?ユウ、いつの間に奥さん作ったさ!!」

訂正。
見知らないわけじゃなかった・・・。
ユウにいと同じクラスで、剣道部副部長であるラビ先輩だ。

「こいつは幼馴染のだ」
ちゃんかー・・・俺はユウの心友のラビっす!よろしくね」
「誰が心友だ、馬鹿兎」

おおう、剣道部名物、誰も絶対に口にしないけど、ある意味夫婦漫才が目の前で繰り広げられてる・・・。
ユウにい気に入ってる人間にこそ容赦ないからなぁ・・・。

「それにしてもユウに幼馴染なんて、びっくりさー・・・。あれ?ってことは、今日のユウのプリンを作ったのって・・・」
「ああ。はい。それあたしです」
ちゃんとユウにいには、甘さ控えめで作ったやつだ。
「ちっ・・・どうでもいいんだよ、んなこと。つーか、今日なんだ」
「煮込みハンバーグだよ。匂いでわかるでしょ?ユウにい」
わかってるくせにあえて聞くのは、どうにかならないものかなぁ。
・・・ううん、でもこれなくなると、会話が少なくなる気がするよ・・・。

「煮込みハンバーグ!・・・あー・・・俺も腹減ってきたさぁ・・・」
グーキュルキュル、と高い音が響いた。
「帰りながらパン食ってたじゃねぇか・・・」
「あれは家に帰るまでの食いつなぎだって・・・ユウのやけに燃費いい体と一緒にしてもらっちゃ困るさ・・・」
男の子ってすごい・・・。
アレン君はまた別規格なんだろうけど・・・ユウにいはあんまり食べないくせに何時間でも動き回れるからなぁ・・・。

「ラビ先輩、よかったら食べていきますか?」
「・・・は?」
「え、いいんさ!?」

きょとんと眼を見開く二人を見ながら、あたしは頷いた。
「今日お母さんが帰れるかもって言ってたから作ってたんですけど、結局帰れなくなったらしいので」
「・・・小母さん、また急患か?」
「人の命救うために生まれてきたって豪語する人だもん。まぁ、あたしもお母さんが急患放り投げて帰ってくる人じゃなくてうれしいくらいだし」
ユウにいのさり気ない優しさに、思わず顔がほころぶ。
うん、こんなところが大好きなんだって、いつも実感させられる。

ユウにいの優しい気遣いとか、いつも眉間にしわ寄せてる顔が穏やかになったり、ちょっとだけ微笑んだり。
そんな顔を見るたびに、あたしはこの人を大好きなんだなぁって思い知らされる。


「・・・いつの間にか二人の世界に入ってるさ・・・」


めったにないから、もうちょっと満喫させてください、ラビ先輩。




あたしの特権



( 幼馴染だから、でもいいの。だって実際にその顔を見れてるのはあたしだから )


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