誰が、こんなこと予想できただろう。 心臓がバクバクと耳を占拠するほどに煩くて、あたしは一度大きく息を吸って吐いた。 深呼吸、なんてあんまり意味が無くて、結局あたしはバクバクと煩い音に耳を占拠される。 もう、とまってしまえばいいのに(いや、とまったら困るけど)。 今から敵地に入るわけでも、試験を受けるわけでもなんでもない。 人生が左右されることなんかじゃ、ない。 「お、はよう・・・鵺」 だんな様を、起こしに行くだけ、なのに。 あたしの心臓は今もバクバクと繰り返し耳を占拠していて、どうにもこうにもあがった体温は下がりはしない。 新婚って、皆こんな思いをするんだろうか・・・。 いや、あたしだけだ。 例えばこのことを誰かに話して、その相手が惚気だって言おうとも、あたしは真剣だ! 「ぬ、鵺・・・起きて?」 幼馴染なのに、一緒にずっと過ごしてきたのに。 どうしてこうなったんだろう(結婚したことは死んでも後悔なんてしないけど)。 「ん・・・。はよ・・・」 だ、だ、だ、だから鳴るな心臓ーーーー!!!(いや、とまったら困るけど!困るんだけどもっ!!) 短く唸って、鵺は上半身を起こした。 服は昨日のまんまで、かろうじて下半身だけはパジャマを着てた。 た、耐えながらも着せた苦労は実ったっ!! 何せ、鵺はせっかく着せても寝相か何かはしらないけど途中で脱いじゃうことがあるし。 顔は眠そうで、どこか目がとろんとしてて唇が半開き。 息を呑んだ。 「おはよう、鵺」 必死で平生を装ってみたりして挨拶をすると、ふいに鵺の目がこっちを見た。 ――って、 「な、何で掴んでいらっしゃるんですか、鵺さん・・・」 「いやー、朝から奥さんと仲良くしたいなーって思っ――」 「あほかぁあああ!!!」 掴まれた手にすらドキドキして、振り払うように叫んだ。 「昨日もしたでしょっ!?っ、この絶倫男っ!!」 「酷っ!夫婦が仲良いんだから悪いことじゃねぇだろうが」 何が悪い!といわんばかりに威張るなっ!! 「・・・朝ごはん抜くよ」 ボソリ、とつぶやくと鵺の肩がゆれた。 「ごめんなさい・・・」 「よろしい」 必死でいつものテンションになるようにあわせてるけど、今でも心臓の音が耳を占拠していた。 「はよ、」 「っ!」 スルリと、手を伸ばして顔を近づけて頬にちゅーする鵺に息を呑んだ。 誰が、予想しただろう。 あんな小生意気な少年が、こんなにもエロくなるなんて!! |