ぐらりと目の前が黒くなった。 それは何だかまるで風邪を引いた時みたいだった(その時は、倒れたんだけど)。 息苦しくて苦しくてどうしたらいいのか分からなくて涙がでてきた。 悔しくて悔しくて、人の来ないトイレの一室に隠れて泣いた。 沢田綱吉がイタリアに行ってしまう。 あと、7日で、消えるように。 あたしは同じクラスのただ片思いをする女子なだけで、接点も少なくて。 あたしには「どうして?」なんて聞くこともできない。 でもね、でも沢田君、あたしは貴方のことが好きなんです。すごく好きです。 彼は突然強い目をしはじめて、格好よくなって、なんだか別人のようになったけど。 前から好きな部分の優しさは損なわれないで輝いていた(光のように)。 傷を負っていたときもあったけれど、彼の目は一つの未来を向いていて、その視線は揺るがなかった。 皆、その沢田君に息を呑んだ。 どうしたらいいのか分からなくて、あたしはただ泣いていた。 ボロボロと涙を零しても、零しても、零したりないくらいに泣いていた。 悔しくて悔しくて。 どうしてあたしはただのクラスメイトなんだろう。 何で、あたしは接点も少ないようなクラスメイトなんだろう。 どんどん強くなっていく彼を見ることしかできない弱いあたし。 無力なあたし。 このままじゃダメだって思うけど自分が傷つくのが怖くってなんにもできないの。 イタリアに何で行くの?と詰め寄ることも、行かないで、も言えなくて。 あたしはただ無力に(それこそ物語のヒロインではなく脇役のように無様に)泣いているしかなかった。 小さな個室の中で泣き声を響かせて、ずっと泣いていた。 好きです、好きです、沢田君。 あたしの名前を貴方が知っているかなんて全然しらないけど、あたしはあなたのことが好きです。 どうしようもないくらいに大好きなんです。 「ツナ」 山本くん、が沢田君の名前を呼んだ。 そういえば彼は一緒にイタリアに行くらしい。 ファンの子が涙を流していた気がする。 同じく、イタリアに行くらしい獄寺君もいた。 確か、もう高等学校に行った笹川先輩も、未だに恐れられている雲雀先輩も、イタリアについていくらしい。 羨ましい。正直に言うと凄く凄く羨ましい。 だって、何を見ているかなんてしらないけれど、それでも決して楽じゃない道の上を歩き出す彼と一緒に歩くことはできないんだ。 あたしはトイレで泣いていた。 一週間後、沢田綱吉が日本を離れ、イタリアに行ってしまうことをあたしは知った。 |