本当に輝いていると思う。 ダメツナ、ダメツナって言われていたけど、あたしはそうは思わなかった。 確かに勉強も出来ないし、スポーツも出来なかったけど、とても優しい目をしていて、とても優しい人なんだと思った。 沢田君が学校に来るのもあと6日だっていうのに、毎日真面目にきていた。 たしか京子ちゃんが好きらしいから、きっと最後まで見ておきたいんだ(そう思うと胸が痛くなった)。 教科書に視線を落とす仕草も。 ふと顔を上げて黒板を見て、ノートに書き写す仕草も。 隣の山本君と小さな声で話して、顔だけで笑って、それからゆっくり視線が前に向くのも。 シャープペンシルを回す癖と、トントントンとペン先で机を叩く癖。 問題を見て、困ったような顔をして、考え込む仕草も。 納得したように小さく頷くのも。 全部全部、キラキラ輝いているように見えて、とても胸が痛くなった。 もう、見ることも出来なくなるんだ。 こうやって、見ていることも、出来なくなってしまうんだ。 たったそれだけ、なのに。 授業中だって言うのに、ジワリと涙が出そうになって、あたしは下唇を噛んで堪えた。 「さん」 突然、声がして、あたしは顔を上げた。 するとそこには、さっきまで(本当は今、も)頭を占めていた沢田君が立っていた。 「な、に?」 「消しゴムが机の下に入ったんだけど、取ってもいい?」 控えめに笑って、ごめんね、という沢田君に首を振って、それから立ち上がった。 ガタン、と急いだせいで椅子が少し揺れて、沢田君はその背もたれに手を置いて、机の下の消しゴムを取った。 沢田君の指が、あたしの机の下の床に触れる。 「ありがとう」 にっこりと笑って、沢田君は消しゴムをあたしに見せて言った。 「どういたしまして」 あたしも少しだけ笑うと、沢田君は席に戻っていった(そういえばいつのまにか休み時間だ)。 ゆっくりと席に戻りながら、あたしは顔が熱くなっていく気がして、窓に視線を向けた。 椅子に座ろうと背もたれに手をかける(わざと、沢田君が触れたところに)、カシャンとシャーペンを落としてそれを拾う(沢田君が触れたところに一瞬触れた)。 たったこの短い、しかも間接的な接触だけで、凄く胸が高鳴って高鳴ってどうしようもないのに。 あともう少しで沢田君はイタリアなんて、遠い遠い外国に行ってしまうなんて。 空は繋がってたって、私たちの歩く陸が繋がってないなら意味がないじゃない! こうやって少し離れた場所の席の沢田君を見ることも、声をかけてもらうことも、声を聴くことも、出来なくなるなんて。 (ああ、神様。あたしは決して多くを望んだつもりではないのに) 沢田君は6日後にはイタリアに行ってしまうなんて感じさせないように、いつものとおり過ごしていた。 獄寺君に苦笑して、山本君に感謝していて、そうして最後には3人で笑っていて。 別にさようならを惜しむように積極的に話をすることも無くて、イタリアの話には曖昧に苦笑を返して、そうしてどんどん存在を消していくように(まるでイタリアに行ったときには皆が忘れてしまいそうなほどに)。 でも、無理だよ、沢田君。 あたしは絶対にあなたがイタリアに行っても、忘れない。忘れられない。 だってこんなにも。 |