もう、ぐしゃぐしゃ。 どうしたらいいんだろうって膝を抱えてるしかなかった。 「ちゃん、どうしたの?」 「林檎、ちゃん」 そっとあたしの肩に手を添える林檎ちゃんが、心配そうな顔であたしを見てた。 「元気ねぇな。何かあったのか?」 そう言うのは蜜柑ちゃん。 白梅ちゃんも向こうで心配そうな顔をしてた。 「ううん、なんでもないよ。えと、ちょっと風邪気味なだけ」 えへへ、と笑って誤魔化した。 あたしは鵺を好きになってしまったのに、皆は普通に笑ってあたしを心配してくれる。 あたしが鵺を好きだってことを、知らないから。 「ありがとう。皆、大好き」 別に強制されたわけじゃない。あたしが、皆を護りたいから傍にいるだけ。 だから、絶対に裏切らないって決めただけ。 ―――「そんな泣きそうな顔でエネミーなんて言うな。別に戦以外で戦いたいわけじゃねぇだろ?」 煩い。 あたしにとって、鵺は敵なんだから。 「そう?なら良いんだけど・・・家に帰ったら薬飲んだほうがいいよ。あと暖かくして寝てね」 「うん」 皆を護りたい。 「ちゃんが風邪でこれなくなったらつまらないでし」 しゅんっと人形をを抱きしめながら言う白梅ちゃんに思わず泣きそうになった。 ここを、裏切りたくない。 「早く治せよ?」 何か買ってやるよ、っていう蜜柑ちゃん。 皆大好き。 無かったことにしよう。知らないふりをしよう。 もうドキドキなんてしない。もう嬉しいなんて思わない。もう好きなんて思わない。 壊したくないよ。 大切な場所だから。 「うん。ありがとう・・・皆」 大好き。 もうあそこにはいかない。きっと思い出すから。 抱きしめられたあの腕の温かさとか、雨の冷たさとか、呼吸の音とか、心臓の音とか、声とか、心配そうな目とか。 雷の王じゃない、鵺という存在のことを。 「じゃあ、あたしもう帰るね」 忘れなくちゃ。 「うん、気をつけてね」 「無理すんなよ?」 「また明日でし!」 手を振ってくれる皆に手を振り返して、小雨の中空を飛んだ。 忘れなくちゃ。 |