「これで、動けねぇな」

その言葉にあたしは目を閉じた。

ああ、きっとやられるんだ。あたし、林檎ちゃん達を護りきれなかったなぁ。
きっとあたしがこの状態になったら倒せなかったかもしれない。だけど、鵺にはそんなこと関係ないんだから。


「・・・悪ぃ、痛む・・・か?」

「え?」

そっと触ってきたのは、頬。
さっきの戦いの中で鵺に蹴られて腫れてて、それを見てくる目は。


「さわ、らないで・・・」

どうしてそんな心配そうな目で見てくるの。
あたしだってやり返したし、お互い傷だらけだし、鵺だけじゃないし。

だからそうやって心配そうな目で見られる理由なんて無いのに。

何で。


「もう、や。やめて、そんな目で見ないでっ。なん、で、あたしは敵なのに」

さっさと、あたしを倒してよ。

もう痛いし苦しいしどうしたらいいのかわからない。
ぐしゃぐしゃで気持ち悪い。


・・・」

優しい、声。

「やめてっ、呼ばないで!」

聞きたくない。聞くたびに嬉しくなるから怖い。


もう、どうして?
「あたしは林檎ちゃんたちを裏切りたくないのに、裏切るつもりなんてないのに。護り、たいのっ!」
何言ってるか段々自分でもわけがわからなくなってきた。

「・・・ああ」
促す声は優しくて、泣いた。それにあたしの口は加速する。


「どうしてあたしの『好き』にいるの?いらない、出てってよぉ!あたしはあんたなんか好きじゃないのにっ!」


出てって。出てってよ。
お願いだから。


「あたし、はっ、林檎ちゃんたちを護るんだからぁっ!」


出てってよ。



苦しくて、苦しくて、どうしたらいいのかもう、わかんない。
助けて。


「逢えたのなんて嬉しくない!名前を呼ばれたのだって嬉しくない!触れたのだって嬉しくない!抱きしめられたのなんて嬉しくもなんともなかった!むしろ気持ち悪くて仕方が無かったんだからっ!」

苦しいよ。苦しい。
お願いだから、あたしがこれ以上好きになる前に、お願い、誰でも良いから。



「好きなの」



ここは林檎ちゃんたちも知らない、あたしのたった一人の場所だから、きっと許される。
・・・許される、なんておかしな話だよね。

きっと普通に生きてる人たちからしたら、鼻で笑ってしまうかもしれないようなことかもしれない。
だけど、あたしたちにとってはこれが現実なんだ。


「好き」





現実の狭間で



( 決して告げてはいけない恋を口にしました )