ついに言葉になっちゃった。

痛いぐらいに沈黙が漂って、それから鵺が口を開いた。


「は、え、・・・マジでっ!?」
息を呑んだ音が聞こえた。

「嘘言えるわけないじゃないっ!」

嘘であたしが、しかも雷の王である鵺・・・ううん、ジェネシスの傘下の鵺に言えるわけがない。
眠りの森であるあたしが、ジェネシスの鵺に、なんて。


というか、何で、顔赤いの?

「え、あ、うわっ。いや、なんていうか、俺のこと嫌いっていうのは嘘かなぁとは思ってたんだけど」

何が、どうなってるの?
いつの間にか拘束も緩んでて、鵺が隣に座るからあたしもゆっくり起き上がった。

けど、まだ手は離れない。



「え、あ・・・わり。嬉しいって言ったら、怒られるか?」


――は。

「嘘言わないでっ!」


違う違う違う、いっぱいに膨れ上がってる期待通りなんかじゃないっ!
やだやだやだ、違う!
そんなわけがない、そんなことなんてない、そんなこと・・・あっちゃいけない!


「嘘じゃねぇよ」


どうして。

どうしてあたしが精一杯我慢してきたものを、そんな風に言ってしまえるの?
あたしは精一杯我慢して、知らないふりをしてきたのに。

林檎ちゃんを、蜜柑ちゃんを、白梅ちゃんを護りたくて、裏切りたくなくて。

だけど消えなくて。
毎日心の中ぐしゃぐしゃで、わけわからなくて、苦しくて。

切なくて、誰かに言ってしまいたくて、どうしようもないくらいに悲しかったのに。


何でそんなに簡単に。


「さい、ってい!」

嬉しくなんてない。
今まであたしが耐えてきたものを簡単に壊した!

裏切りたくないから、護りたいから、だからそのために耐えてきたものを、簡単に。




嫌い。嫌い嫌い嫌い。大嫌い。
声が優しいのも嫌い。笑い顔が優しいのも嫌い。鵺が嫌い。

駄目、駄目。嬉しいだなんて思ってない。

そう思っちゃったら、あたしは皆を裏切っちゃう。


「来ないでっ!」

急いで離れようと思ったのに手を掴まれてて、離れられなかった。


距離が、近い。
駄目・・・あたし、もう、駄目だよ。


「今気づいた。・・・俺も、が好きだ」

唇が、触れた。





壁を護り続けた者と、壁を壊す者



( どっちの方が簡単だったかなんて、きっと答えなくても分かる )