「お・・・・ろ、お・・・・」 誰かがあたしを呼ぶ声がする。 「・・・・て、さっさと、おきろ!」 起きろ、と繰り返される言葉に、あたしは身を捩らせた。 「うーん・・・お母さん、あと5時間」 「なげぇっ!ファックっ!つーか、道路で5時間放置してもいいんだなっ!・・・あ?ああ、分かってるよ、亜紀人」 亜紀人、という名前が耳に入って、あたしは上半身を起こした。 冷たい。 あたしを起こした声の人が言うように、本当に道路の上だった。 「あ・・・」 目の前の人を見て、亜紀人君?って言おうとしてやめた。 姿も形もそっくりだけど、何だか亜紀人君じゃなかった。 「誰?」 「・・・俺は咢だ」 「咢君?・・・・・・って、亜紀人君の兄弟?」 「俺は・・・亜紀人の人格だ。つーか、君はいらねぇ」 ファック、と小さく呟いて顔を逸らした咢君・・・じゃなくて、咢は、何だか亜紀人君とお話をしているらしい。 多重人格、なんて初めてあったけど、怖い感じはしなかった。 なんてったって、亜紀人君も咢も、優しいし。 「ああ・・・わかってる。――おい、」 「へ?あ、はい」 「てめぇ、なんでこんなところにいたんだ」 こんなとこ。 そう言われて、さっきのことを思い出して、じわじわなきそうになった。 「?おい?」 「あたし、あたしってひょっとして・・・愛されてないっ!?」 がーん、なんて。 ついつい、ありきたりな擬音語を口で言ってしまいそうなくらいにショックだった。 ああ、もういっそのことこのまま泣いてしまえ。 そう思うと、いつのまにか目からボロボロと涙があふれ始めた。 「触覚のバカー!」 「で、ちゃんは苦しくなっちゃったんだ」 何時の間にか咢は亜紀人君にかわっていて、相談会が始まった。 「・・・うん」 「言ってみたらいいのに」 「うーん・・・がん、ばる」 いつだって元気を出してくれるみたらし団子の味はしないのに、どう頑張ったらいいのかわからないけど。 とりあえず、頑張ろう。 「じゃ、さっき渡り鳥に見られてたから、多分もうすぐお迎えが来るよ。じゃあ、頑張ってねちゃん」 そう言って、亜紀人君はばいばいと手を振ってどこかに歩き出してしまった。 「・・・遅い」 「悪かったな」 後ろにいた鵺に、にやりと笑ってやった。 |