「落ち着いた?ちゃん」 優しい声が、そっと頭を撫でた。 「は、はい・・・」 スピさんがくれた水を、ぐいーっと飲み干してから、あたしは大きく息を吸った。 お、落ち着け、あたし。 思い出しそうになって、また水を飲み込んだ。 「で、調律者のことなんだけど」 間髪いれずに、巻上さんが口を開いた。 そんなに人員不足なのかな・・・。 って、あんな可愛い子が一杯いたんだから、そんなことは無いんだろうけど。 だったら、あたしには、力があるっていうこと、なの? 「あ、あたし・・・」 朝起きて、学校に行って、帰って、テレビを見て、お風呂に入って、そして眠って。 そんな平凡な日がとても大好きで、でもどこか退屈で。 繰り返しやってくる同じような日の中で、小さな新鮮を見つけて、それが幸せだった。 突然、こんな非凡がやってきて、耐えられるわけがない。 いつもみたいに、鵺のところに遊びに行って、鵺と一緒に笑って。 そう、思い出の中には、いつも、鵺がいて。 「別に、ならなくていい」 「―――え?」 突然、降って来た言葉に、あたしは顔を上げた。 そこには、苦渋の顔の鵺。 「断っても、俺が納得させる」 そう言って、巻上さんやスピさんを睨む鵺の顔は、思い出より大人びていた。 「あの、あたし―――」 ぐ、と手を握り締めた。 平凡だ、非凡だ、そんなのよりも前に。 『調律者』という力を得ることで、何よりも先に思ったのは。 「・・・」 そっと肩に手を触れた鵺に笑った。 ・・・あたし。 あたしは、鵺の力になりたい。 ちっぽけかもしれないけど、何も出来なかった前より、今は力を得ることが出来る。 鵺を、助けることができるかもしれない。 それだったら、あたしのとる選択肢は。 あたしが、選ぶのは。 あたし、は。 「―――調律者になります」 |