「それで、こんなに機嫌が悪いわけだね?」


格好いい美容師さんがいる、という噂で有名な美容院に、友達に腕を引かれついていけば、そこにはスピさん。
スピさん、あたしの名前呼んじゃうし、休憩入っちゃうし、ああ、明日は尋問だよ、公開処刑かな・・・。


「笑い事じゃないですよ、スピさん」
ぶす、と頬を膨らませて、スピさんがおごってくれたジュースを飲み込んだ。

色々人生の波乱を乗り越えてきた(と思われる)スピさんにとっちゃ、小さなことかもしれないですけど・・・。
「ごめんね、ちゃん。・・・まぁ、鵺君も悪い、といえば悪いような気もするけどね」
はは、というスピさんに、あたしは大きく頷いた。
「そうです!そうなんですよ!!あたしだって、鵺のこと心配してるのに!!」
――って、本人がいなきゃ、言えるんだけどなぁ・・・。

大きく溜息をついて、あたしはケーキを一口、口にした。
あー、やっぱりおいしい。


「で、どうする?」

ひじをついて、大人な笑顔でニッコリと笑うスピさんに、不覚にも、顔を赤らめてしまった。
「へ?」
「調律者のこと、別に僕はいいけど?」

ああ!ちょっと、ウェイトレスさん!!その微笑を見て倒れないで!
な、何なんですか、スピさん!
なんだか、フェロモンばんばんですよ!?

「い、いや・・・、それは・・・その・・・」

あれは言葉のあやっていうか、なんていうか。
勢いで言っちゃっただけだし、本気じゃないっていうか・・・その。

しどろもどろになりながら、言うと、突然ふ、と空気の抜ける音がした。

「っくく、冗談だよ、ちゃん」
「―――スピさん!!」

冗談であのフェロモンは反則ですよ!!
一瞬にして、あのばんばんに出ていたフェロモンが引っ込んだ。

やっぱり、計画的に出してたんだ・・・この人。



「そういえば」
「はい?」
スピさんにからかわれて、むすっとしながら飲んでいたジュースから顔を上げた。
「イネが君に来るように、といっていたよ」

イネ・・・イネ・・・あ、巻上さんの下の名前か!
自己紹介されたのに、つい忘れてた・・・。

「調律者について、教えてもらうんですよね」
そういえば、そうだった、というと、スピさんがなにやら考え込んだ。


「・・・それが、どうも違うみたいだよ」


「はい?」





この人計画犯だ!!



( こんなフェロモンありえねー!! )