「牙の、王?」

病院の廊下を歩きながら、アタシは、目の前の巻上先生に聞く。

「ええ、今回の患者よ」
「・・・で、何で私を連れて行くんですか?」
針による治療法とか、マッサージとか、色々教わったけど。
はは、まさかねぇ。


「もちろん、に治療してもらうためよ」


やっぱりですか!?


ど、どこまで突然なんですか!!


「あの、巻上先生・・・あたし、実践したことありませんよ?」
そりゃ、嫌っていうほど叩き込まれましたけどね、ついさっき。
何も見ずに言えるほど、暗記しちゃってるけど。
・・・あれは怖かった・・・。

それよりも、知識があっても、実践経験が無いんだから、止めたほうがいいような・・・。


「それが、貴方の力よ」
突然、巻上先生が眼鏡を上げて、ニコリと笑う。
あたしの、力?

「先生・・・あたしの力、って・・・」
「ここよ」

あたしの言葉を遮るように、先生が止まった。
気配を殺して、足音も立てずに入る先生に倣って、あたしも音を立てずについていく。


そこには、月明かりに照らされて、哀しげな、少年。
―――に、先生はブスリ、と注射器を指した。


「ふふ、役得よねぇ・・・」
レロ、と上唇を舐める先生は、とても妖艶でした。




、来なさい」
「は、はい!」

巻上先生に呼ばれて、あたしはその少年の横へとついた。


「初めまして、です」
どうも、と頭を下げると、躊躇ったようにその少年は挨拶をしてくれた。
鰐島咢君、というらしい。


「じゃあ、始めて、。教えたとおり、力を抜いて」
咢君のズボンを捲り上げて、あたしの肩に手を置いた巻上先生は、にこり、と笑って言う。
「はい・・・」

教わった通り、教わった通り。

目を閉じて、さっきまで教わっていたことを、一つ一つ思い出す。

片手に針を取り出した。



「それじゃあ、いきます」
強く、手を握り締めた。





それがあたしの出発点



( 貴方がいない間に、こんなにも成長してやる!!! )