白い白い室内で、荒く、苦しむ声が響く。
保健室のベットに、顔にタオルをかけ、苦しそうに息しているのは、鵺。
見送って、そんなに時間も経ってない、鵺。


「く、そがっ・・・!」

吐き出すように声を上げる鵺の手を、握るしかなかった。


どうしよう。

足元ではじけているように壊れている玉璽に、ビクリと体が震えた。
これから、あたしは鵺と調律をする。
奈々ちゃんがしたほうが言い、って言ったのに。




さん」
そっと、奈々ちゃんがあたしの肩を支えてくれたけど、そっちに振り返る余裕も、無かった。
ただ、荒い息を上げる鵺の手を握ることに精一杯で、ドクドクと耳にも届きそうな心臓の音が煩わしかった。
保健室に運ばれた鵺を見たときには、心臓が止まるかと想った。

だって、こんなに、苦しそうで。

こんなに、辛そうで。

鵺が、鵺が死んじゃうんじゃないかって―――っ。



、調律の準備が整ったわよ」
そう、巻上先生の声が聞こえても、あたしはそこから動けなかった。

どうしよう。
もし、あたしが調律を失敗したら・・・?
きっと、鵺は負けず嫌いだから、すぐ報復にでも行くだろう。
それで、あたしの調律が失敗してて、もし、今度は鵺が、鵺が、死んじゃったら?



「―――さん!」

突然、ソプラノの声が、いつもの声の数倍の大きさで、あたしの耳に届いた。

「な、なちゃん・・・」

ゆるり、と顔を上げると、真っ直ぐにあたしを見つめてくる奈々ちゃんがいた。
「大丈夫です、さん」
「で、も・・・もし失敗しちゃったら・・・」

鵺の命に関わるかもしれないのに。
あたしの、あたしのせいで、死んじゃうかもしれないのに。



「一人じゃありません」



奈々ちゃんは、まるで聖母のように、微笑んで、あたしを見つめる。
「巻上先生がいます。私がいます。はこさんも、このみさんも、枢さんも、すぐに来てくれます。・・・いいえ、それよりも、なによりも・・・・・・調律の時には、すぐ傍に鵺様がいます」
鵺の手を握っていた手が、強く、握られた。
冷たくて、暖かい、鵺を覆うA・Tの感触。

「大丈夫です」
反対の手を、奈々ちゃんが握ってくれた。


「・・・・」
下唇を噛み締める。
いつのまにか溢れていた涙を、ぐ、と息を呑んで堪えた。




「―――いこう!」





君の手は私を救う手



( 貴方の手は、いつだって私を苦しみから、不安から救ってくれるの )