「引越しよ」


そう言われて、いわゆる、引越し族だったあたしは、抵抗もなく頷いた。
どうやら、今度の引越しで落ち着くらしい。
今までで、引越しのことがあるから、あまり友達も作れなかったけど。
でも、今回は作れるな・・・と思って少し嬉しかった。

「ほら、、着いたわよ」
『A・T新発売!』
「・・・ぬあ?」

お母さんの声に続くように、大きな電子広告板の声が聞こえて、あたしはそっちに意識を向けた。
もうCMは変わってるみたいだった。
「A・T・・・」
「ああ、ローラーブレードみたいなものでしょ?何?欲しいの?」
と助手席で首を傾げる母親に、とりあえず頷いた。
すると、視界の端に、何かが映って、キョロキョロとあたりを見渡した。


「やだ、なぁに?珍しいの?」
キョロキョロとするアタシを見てか、お母さんが楽しそうにクスクスと笑った。
うわ、なんか痛い子みたいだ・・・!
「あ、いや・・・別に・・・」
空に何かがあった気がしたけど、わからない。
目の端に映ったような気がした、黒い点は、どこにもない。
ゴミ、だったのかな・・・と目を擦った。
でも、本当に黒い何かが飛んでいた気がした。


「気のせい、だったのかなぁ」
パチ、となった音に、あたしは顔を上げた。
ビルの上を飛ぶ・・・ううん、空を舞うように飛び上がる、少年に息を呑む。
あたしと、同じくらいかなぁ・・・。
足に履いてるのは、A・Tだろうか。
また、パチパチ、と音がする。


「ねー、お母さん」
空に浮かぶ、黒い少年を、ぼんやりと眺める。
「なぁに?」


「A・T買ってください」
ポツリ、とアタシが言うと、仕方ないわね、とお母さんが溜息を吐いた。
普段あんまりわがままを言わないと、こういう特もあるんだなぁ・・・。
少年が見えなくなった後も、あたしは空を見つづけた。





それが運命の始まりだなんて



( その姿に、心を奪われたんだ )