ガシャン、ガシャン、とA・Tの音が虚しく響く。
「うう、上手くならない・・・」

買ってもらったA・Tは、黒い、格好いいA・T。
母親と買いに行ったときに、一瞬でほれ込んだブツだ。
「そろそろ帰ろうっと・・・」
溜息を履いて、歩き出そうとすると、ドン、と何かにぶつかった。

「よ、何してんの、お嬢ちゃん」


・・・・・・・・うっわー、典型的不良。


足元を見ると、どうやらA・Tを履いてないところから、暴風族じゃないらしい。
暴風族のが100倍は怖いから・・・!
「帰るんです」
とにかく、こういうタイプには弱気でいっちゃ駄目だ、と強く突っぱねた。

「じゃあ送ってやるよ」
「結構です」
「そーいわずに」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり、馬鹿には効果なしか・・・。

流石に、A・Tでぶん殴ったら、可哀想な気がする。
でも、正当防衛になるんだろうか・・・。

「てりゃ!」
「ふぐぉ!!!」

思いっきり、男の人の急所に向かって蹴り上げると、その人が蹲る。
よ、よし、今のうちに逃走しよ・・・!


「こんの!ナメやがって!!!」
いつのまにか、後ろに回ってきた不良の仲間の人に、腕を捕まれる。
もう一人には足を。
や、やばい・・・絶対絶命・・・?
「た、すけ・・・!」
ああ、もうやだーーーー!!!!!



バチ!!



心の中で叫んだ瞬間、突然、つかまれていた腕が無くなった。

「おい、大丈夫か」
そこには、空に浮かんでいた、黒いマントの少年。
「あ、ありがとうございます・・・」
「遅くなったらあぶねぇんだから、さっさと帰れよ」
とだけ行って、その人は空へと飛んでいってしまった。


A・T。
あたしと彼との共通点。
もう一度逢いたくて、話がしてみたくて、あたしはA・Tの練習を続けた。
女だ、って馬鹿にされて、侮られて、凄く悔しくて。

あたしは男のフリをして、かなりの実力者として、トリックスターと呼ばれるまでにのし上がった。
全部、全部、彼に近づきたくて。
シムカに誘われるままに、ジェネシスに入って、彼に普通に逢えるようになって。


でも、なんでかな。
逆に、遠くなっちゃった気がするんだ。





張り詰めた糸が切れた



( それでもあたしはトリックスターを求めつづけたけど )