即席お化け屋敷の一件が終わってから(鵺は名前を付けてるみたいだけど、忘れた)、あたしは巻上先生のところへと向かった。
もちろん、そこの学校の制服を着て。
トリックスターの割合が多いから、女の子の格好してると、なんだかいつもと違うなーと感じつつ。
あたしは保健室の扉を叩いた。


「巻上先生ー?」

扉を開くと、そこには数人の生徒。
う、なんかキラキラしてる。


「あら、じゃない」
巻上先生は、あたしの調律をしてくれる人で、唯一、トリックスターの正体を知っている人だ。
「お久しぶりです」
あはは、と笑うと、巻上先生は苦笑する。
「女だからって、調律しないと大変なことになる・・・ってこの間言ったばかりでしょう?」
ゆったり、と女の色気、っていうのを撒き散らしながら微笑む巻上先生に、あたしは苦笑した。
あんまり成長しないっていうのをいいことに、あたしは調律をサボってたりする。
調律が恥ずかしいっていうのじゃなくて、あたしの調律の仕方は少し特殊だから、どうにも面倒なのだ。


「ごめんなさーい。じゃ、とりあえず調律お願いしますv」
ニコーっと曖昧に微笑んで、A・Tを取り出すと、巻上先生はそれを受け取って、苦笑した。
いつのまにやら、生徒さんもいなくなっている。
巻上先生はそれを受け取ると、機械へとはめ込んだ。



「で?」
それから、グルリと振り返った巻上先生に、あたしは苦笑した。
装置を足に取り付けてから、ゆるゆると首をふる。
それに、巻上先生は、小さく溜息を吐いた。
「いつまで隠す気?これからはどんどん女になっていくの。隠せなくなるわよ」
ビシっと指を指して言う巻上先生に、俯いた。

「いえません。この関係を壊したくないし・・・それに」

パっと顔を上げる。


「鵺には奈々ちゃんがいるじゃないですか」
あたしより可愛くて、女の子らしくて、いかにも、典型的な女の子。
美少女の奈々ちゃん。
「奈々と鵺君はそんな感情じゃないって知ってるでしょう?」
そう言われて、また俯いた。

「でも・・・」
「でも、じゃない。体形もどんどんと女性に近づいてきてるのに、隠せると思ってるの?」
無理よ、という巻上先生に、自嘲気味に、笑いが漏れた。

「だったら、消えるだけです。だって、あたしは、そのためにトリックスターになったんですから」
「鵺君が黙ってると思う?」
確信めいたように言う先生の声に、あたしは顔を上げて笑った。



「それでも、あたしは消えます」




この想いなんて足枷だから



( 考えるのが怖いの、逃げだって言われても )