「ご、ごめんなさい・・・待ちました?」


私服姿で待っていた鵺に(私服も格好いい、と遠くで見ほれていたのは内緒だ)、頭を下げながら近づいた。
「ああ、別に・・・10分前だし」

ついはりきって飛び出したのはいいものの、途中で事故で渋滞していて、結局ついたのは10分前だった。
な、なんて出だし最悪。


「それで、どこ行きますか?鵺」
の時には、鵺さんと呼んでいたのだけれど、鵺と呼んでいい、と言われて、そう呼ぶことにした。

間違えて、鵺って打ちそうになったことがあるから、なんとも幸いだ。

「そうだな・・・が決めていいぜ」
という鵺に、ブンブンと手を振る。
「そんな!お礼なんですから!鵺が決めてください!」


結局、まず先にお昼ご飯、ということになった。
「ここ、おいしいんですよ」
といって入った店は、イタリアンの店で、よくお母さんと来るお店。
「へぇ・・・」
チラチラと、あまり目立たない程度に店内を見渡す鵺と席について、話をしながら料理を待った。



「そういえば」
「はい?」

首を傾げたあたしに、鵺が、いや・・・と少し躊躇ってから言う。


「俺の知り合いに、トリックスターってのがいるんだけど」


・・・・・・・・・・。
危ない。
噴出しそうになった・・・。


「トリック・・・スターですか?」
バレた?と思ったけど、どうやらたまたま鵺はその話題をだしたみたいだった。
「いっつもひょうきんで、鵺きゅんとか言ってくるんだけど・・・いい奴でさ」
ふ、と鵺の表情がやわらかくなって、赤くなりそうになったのを、必死で抑えた。
「そ、そうなんですか・・・」
そう言うと、鵺があたしを見て、小さく微笑む。

「何かに似てる」
そう言われて、今度は別の意味で心拍数が上がった。
バ、バレたらどうしよう・・・。
「そいつが前、女装したんだけど・・・」
それが似ていた、という鵺の言葉に、思わず水をこぼしそうになったけど、なんとか耐えて。


料理が来るまでの10分間。
なぜか、トリックスターの話になっていた。





何が、どうしてこんな事態に?



( そりゃ、別の人の話よりはいいけども・・・ )