としても、何度も逢うようになって、あたしはトリックスターと梓の二重生活を送るようになった。

「おっはよー鵺きゅん」
いつもみたいに、後ろから抱き付いて。
ウザい!という言葉を待っていると、何故か今日はその言葉がやってこなかった。

「・・・あのー鵺?」
どこか遠くを見て、ボーっとしている鵺の前で手を振る。
でも、気付かなくて、遠く、空を見つめて、ボンヤリしてる。
・・・一体、何があったんだろ、鵺。


「駄目駄目、トリックスターちゃん」
後ろからシムカが手を振った。


「鵺君は、恋に落ちちゃってるみたいだから」


ニコーっというシムカに、ズン、と突き落とされた感覚に陥る。


こ、い。

恋に落ちちゃったって・・・一体、誰に?
でも、笑ってなくちゃいけない、と顔に、いつもの笑顔を貼り付けて、鵺に飛びついた。
「おやおや、思春期ですか、鵺きゅんってば」
で?どんな女の子?というと、鵺が少し躊躇ってから口を開いた。
「2回くらい、普通の不良から助けたんだ奴で」



・・・・・・・・・・・・・・Pardon?
いや、ぐ、偶然さ、偶然。

「へぇ、白馬の王子様って感じ?」
「んなのしるか!・・・と、とにかく・・・」
つらつらと、なにやら誰かにピンポイントで当てはまるようなことを言う鵺に、心の中で否定した。
ま、まさかなぁ・・・。
「そういえば」
どこか、似たようなセリフを、鵺が言った。

「なんか、トリックスターに似てんだよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ピンポイント、大当たりですか?


「へ、へぇ・・・ちなみに、なんて名前の子なの?」
と、聞くと、鵺が顔を赤くして、目を彷徨わせる。

いや、そりゃね?
違う女の子よりはいいとは思いますよ?勿論。
でも、でも、何か否定してほしい。
「名前は」

ゴクリ、と息を呑んだ。



ああ、最後の壁が崩れた気がした。






最大のライバルは自分?



( そんな、馬鹿な、なんて頭を抱えても、この状態は変わりやしない )