それから、鵺に相談を受けるようになった。
「でさ・・・」
「へぇ・・・」
そのたびに、胸が苦しい。
あたしのことを話しているのに、他人のことを話されているようで。

叫ぶ。
言わないで、笑わないで。
折角、トリックスターとして頑張ってきたのに。



「突然の収集だね」

集まった面子の一人、スピさんに、あたしは苦笑した。
他には鵺、シムカ。


「で、何かあったの?トリックスターちゃん」
と首を傾げるシムカに、あたしはニコリと笑う。
「トリックスターは・・・・・・消えようと思って」
そう言うと、鵺が驚愕の表情で立ち上がった。

「ど、どういうことだよ!」

「そのまんまだよ・・・俺はもう、道化師ではいられない」

そう、諦めたように笑って言うと、鵺が下唇を噛み締めた。


「トリックスターちゃん・・・それは、トリックスターちゃんが、おん」
「シムカ」

シムカの言葉を、名前を呼んで遮った。
トリックスターが消えることになっても、それはいえない。
「別に、そういうわけじゃないよ。ただ、もう笑ってられなくなった」
何とか、顔を笑みに持ってくるけど、それは余り意味をなさない。
ただ、浮かんだ笑顔は歪に映るだけだ。


「笑えない道化師はいらないよ。・・・ごめん、折角誘ってくれたのに」
そう言って、3人から距離を取った。

「さよなら、皆」

逃げるように、闇に消えた。



消えたトリックスターを呆然と見つめていたシムカと、スピットと鵺は、立ち尽くした。
は、と気付いたように目を見開いたシムカが、トリックスターの消えた方向を見る。
「鵺君!追いかけて!」
「へ?」
そして、呆然としていた鵺の腕を引っ張って、ぐいっと押した。
「今、一番トリックスターちゃんに必要なのは、鵺君だから!」
グイグイと背を押されて、鵺はA・Tのロックをはずした。
「いってくる」
「いってらっしゃい」
ヒラヒラと手を振るシムカから、トリックスターの消えた闇を見つめて、空へと飛び出した。





逃げたあたしは卑怯ですか?



( それでも、傷つくことに耐えられなかったの )