「トリックスター!」 立ち止まって、月を見上げていたあたしに、今、一番聞きたくなかった声が聞こえた。 「・・・鵺」 振り返ると、そこには眉間に皺を寄せた鵺。 「説明しろよ」 そう言う鵺に、あたしは苦笑を返した。 「言っただろ?もう、笑えなくなったんだ」 「なんで」 「なんでも」 切羽詰ったような顔をする鵺に、ごめん、と返す。 でも、納得しないように、鵺は首を振った。 梓に戻って、トリックスターを消したいのに。 どうして、そこまでトリックスターを、必要としてくれるんだろう・・・。 「鵺・・・俺はな」 希望が出来たから、望んでしまった。 それなら、希望すら打ち砕いたら、傷つくこともなくなる。 フードを取って、帽子を取って、最後に、ゴーグルを取った。 「あたしは、君を騙してたの」 堪えきれなかった涙が、頬を流れた。 「・・・?」 呆然と呟いた鵺に、あたしは目を伏せた。 これから、やってくるだろう罵声を受け入れるために。 けれど、いくら待っても、罵声は飛んでこなかった。 「は、恥ずかしー!!!」 かわりに、赤面して、ゴロゴロ転がる鵺が一人。 「はい?」 あれ?何だか予想と違うんですけど・・・。 そう思っていると、鵺が赤い顔のまま、言う。 「俺、の時にも、トリックスターの時にも、互いを自慢とかしてんじゃねぇか!しかも本人の目の前で、好きっていってるし!!!」 ・・・あの、何か、着眼点が違うんじゃないですか?鵺さん。 「い、いや、それよりもさ、もっとほかにあるでしょ?」 そういうと、鵺が首を傾げた。 「他?」 「あたしは、ずっと鵺を騙してたんだよ?」 知らないフリして、ずっと騙していた。 鵺を裏切っていたんだよ? |