「・・・そういえばさ、って何で柾輝を苗字で呼ぶわけ?」 何故かタオルで顔隠してた翼先輩が、ふいに思いついたように言った。 うんまぁ。 あたしは女の子の友達と翼先輩以外苗字で呼んでる・・・けど、別に仲が悪いわけじゃないからね!! 「だって、翼先輩と違って、名前で呼ぶ意味はないじゃないですか」 いやん、と頬に手を当てていうと、翼先輩が眉間にぐっと皺を寄せた。 「・・・その心は?」 「将来あたしも椎名になるから、癖になっちゃいけないと思って」 「じゃあそのいまだ見ぬ椎名君とやらのためにこれからも練習頑張って」 「やだ、その椎名君、はここにいるじゃないですか。もう、とぼけちゃって!」 あれ?なんか視線そらされてますけど? 翼せんぱーい? 「いやー、今日も翼先輩といれて有意義な時間でした!」 「俺は疲れたけどね」 どっぷりと日も暮れて、おうちに帰る。 今日の翼先輩も相変わらず素敵でした。 流石に学年は違うから翼先輩と授業中まで一緒にはいられないけど、その分朝と部活中と夜には一緒にいる。 ちなみに授業中の写真はとあるルートから押収してるから、そのへんはバッチリです。 「。ニヤついてるとまるっきり不審者なんだけど」 「無理です。抑えられません」 一緒に登下校っていう状況は同じだけど、朝と夜じゃ嬉しさの度合いが違う。 いつものようにひっついて一緒に帰るあたしに翼先輩は何も言わずに、態々正反対なあたしの家に向かって歩いてる。 先輩は疲れてるだろうからって断ったけど、こんな時間に女を一人で帰らせるほど馬鹿じゃないって言ってくれて、それで一緒に帰ることになった。 ・・・ああもう、それを言ってくれた時の先輩の格好よさって言ったら!! 「・・・、意識飛ばしてると置いてくよ」 「うぁはい!ご、ごめんなさい・・・!」 ペシっと頭を叩かれた。 ああ、あたし先輩よりちっちゃくてよかった・・・。 だんだんと周りの風景で家に近づいてることを感じて、あたしは内心で深く溜息を吐いた。 うちがもっと遠ければよかったのに・・・いや、それは翼先輩がもっと大変になるから却下。 でも、翼先輩ともっと一緒にいたいっていう気持ちが抑えられない。 せめて翼先輩と同じ歳だったらよかったのになぁ。 「着いたよ、」 「ありがとうございました、翼先輩」 そんなこと考えてる間に家に着いちゃって、立ち止った翼先輩に向き直る。 あたしを見たまま「じゃあね」なんて言って帰ろうとしない翼先輩は、いつもあたしが家に入るまで見ていてくれる。 いっつも迷惑そうな顔するくせに、どうしてそんなに優しいのかな。 なんだかそう考えると切なくなって、ぎゅって心臓を掴まれたみたいになった。 ・・・って、いけない! 翼先輩は疲れてるんだから、さっさと家に入って、翼先輩が帰れるようにしなきゃ。 「それじゃあ、翼先輩!また明日!」 「ん」 そう短く返事をする先輩を見てから、それから玄関までのちょっとした段差に足をかけて振り向いた。 そんなあたしに翼先輩が不思議そうに見てくる。 うん、理由なんてなんだっていいや。 「翼先輩!今日も大好きです!きっと、明日はもっと大好きになります!・・・おやすみなさい、翼先輩」 あたしは翼先輩をもっと好きになっていく。 |